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シアタートラム 『お勢登場』

 閉じ込められる。大きな黒い長持の中だ。蓋が開かない、と知ったときの動転、狭い長持の中で何とかして押し開けようとする無駄な努力、家人を気づかせようと上げる大声。そして、段々に息が苦しくなってくる。どういう工夫なのか、長持の中の仰向けになった格太郎(寺十吾)が照明で照らし出され、目をつぶりたくなるような苦しさが押し寄せる。乱歩だなあ。

 よく考えてみると、閉じられた本、読まれていない本というのは皆こうして、声にならない声を上げながら、登場人物は皆本の中に閉じ込められているのかも。こわーい。と思いながら本の表紙をとんとん、とたたけば、此方もまた、本の外の世界に閉じ込められている誰かになるのかも。

 舞台は一階と二階の二層に分けられて、障子のような縦にほそながい桟に仕切られている。上等の飼い鳥、昆虫の代わりにすり餌をもらう野鳥の籠のようだ。一階の障子が三分割されて、乱歩の世界が精巧に切り嵌められて登場する。よくできていた。特に中心にお勢(黒木華)を据えるという趣向が、生きながらピンで留めつけた考えみたいに、こわくて生き生きしている。江戸川乱歩ってじつは、お勢のような女だったのではないかと思うくらいだ。黒木華が楽しそうに、絶望を通り越した退屈の中にいる女を演じる。晴れ着を着て椅子の男にしなだれる姿も、とてもうつくしい。

 片桐はいりの、寝間で夫(梶原善)とやり取りする妻は、背徳的というより、おかしい、上品な味があってよかった。戯曲は素晴らしいのに、カワル演出がいまひとつ。舞台奥からカサカサ音がしていたのは、長持の中を暗示していたのかな。押絵の寺十吾、も少し支配的でもいい。この鳥かごのような世界にすり餌を入れていたのは、お勢だったのだろうか、それとも?