M&Oplays produce 『皆、シンデレラがやりたい。』

 価値の転倒。まず、こうした表現が、誰にも潰されずに出てきたことを寿ぎたい。終演後、カーテンコールを待たずに、苦い顔をして出てゆく人(男性)の中に、自分にとっての抑圧の具体像を、「見た。」という感慨に打たれた。

 もちろん自分は旧態依然とした体制の内側で、保護され保障された存在であり、「男に使う金、自分で」稼ぎたいと言い放つ由依(根本宗子)とは遠く隔たっている。しかし、金で女の人たちをいいようにしてきた世の中から一歩出て、金で男の人をいいようにして何が悪いか。逆のことが舞台で起きると、男の人はあんなにも怒るのである。それってびっくり。世間知らずでごめんね。

 そこで思い出すのがジョン・ル・カレのスパイ小説なのだった。イギリスの諜報機関が、ソビエトの諜報機関としのぎを削る。大義を掲げてどちらも頑張るわけだが、読めば読むほど大義が相対的に見えてくる。この芝居にも、相対的なところが欲しい。男が金で買ってたからって、おんなじことするのか―。っていうがっかりと、最後の報いもちょっとがっかり。面白いし、十二分に成り立っているけど、「まだそこ?」という気持ちだ。

 芝居はワンシチュエーション、地下のスナック(ふかふかの赤いソファ、うすいアプリコット色の壁、派手な柄の絨毯)で進行する。アイドルりっくんの熱狂的なファンとして知り合った三人の中年女性(高田聖子、猫背椿新谷真弓)。そのりっくんの寝顔の写真がネットに流出したことから、三人はりっくんの恋人三村まりあ(新垣里沙)相手に「炎上」騒ぎをさらに大きくする。中年女性のやり取りは毒気もありとても面白いが、まりあが真相を告白するまでの脚本はちょっと停滞。高田聖子のドレスとバッグ、靴の組み合わせ、笑った。