渋谷TOHO  『LA LA LAND』

 日曜の朝九時。映画館は満員。終映後ロビーに出ると、お母さんに連れられてきた小学女児(低学年)数名が三々五々いる。まわりこんで正面から顔をよぅく見たが、その目は乾いている。小学生は、泣かないんだなー。

 逆に言うと、上映館の中は、大人の啜り泣きでいっぱいだ。睫毛が濡れている人、ティッシュで鼻をかむ人、きまり悪そうに早足で去る人、皆泣いている。

 冒頭の「掴み」のシーンから、とてもいいのだった。ロサンジェルスの朝の通勤ラッシュ、本線へ合流するカーブの高架を車が埋め尽くす。一つのクルマに一つの音楽。その音楽がいつのまにか、歌詞になり、歌になり、ドアを開けてダンスになる。遠い遠い合流地点の、豆粒のように見える車の上で踊る、豆粒くらいの人影まで見はるかし、ミュージカルは始まる。

 混雑する車の中でセリフを浚うミア(エマ・ストーン)は後ろの車のセブ(ピアノを耳コピしているジャズピアニスト=ライアン・ゴズリング)に派手にクラクションを鳴らされる。ミアは大学を止めてロサンジェルスに女優になる夢をかなえにきた。オーディションに次ぐオーディション。そしてコーヒーショップで働く。ある日ふと聴こえたジャズクラブのピアノの音に感動したミアは、それがセブのものだと知るのだった。

 映像が青、赤、黄、緑の鮮やかな色合いを、黒いシャープな影が囲んでいる感じの独特のもので、うつくしい。「心が近寄る」ことをダンスが端的に表現していて全然唐突に感じない。パウダーブルーのニットを着て、オーディションで歌うミアを見ていると、画面がぼやけているのは、ニットのモヘアのせいなのか、自分の涙のせいなのか、わからなくなった。

 大人は小さく折り畳んだ別人生を体の中に持っている。それがカプセル錠みたいに作用して、映画を見ながら皆涙にくれるのだ。