読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

椿組2017年春公演 『始まりのアンティゴネ』

 オイディプスにアンティゴネという娘がいて、その娘が国王クレオンの禁を破って兄の遺体を葬ったことから、アンティゴネは捕えられ、縊れて死んでしまう。しかし、アンティゴネの許婚だったクレオンの息子もその足元で自死し、クレオンの妻も後を追う。悲惨な話さ。作の瀬戸山美咲は、舞台を日本に置き換え、ある食品会社の一族の中に出た自殺を、無いことにしてしまおうとする社長の圧力と、それに抗する妹あずみの対立、続けて起きる一家全員の論争で、クレオン=社長と、アンティゴネ=あずみを、救おうとする。

 最初、あずみ(占部房子)が「自殺を公表したい。」と言い張るとき、観ている私には一向ぴんと来ない。それはあずみ自身が、なぜこんなに公表にこだわるのか、頭ではよく解っていない所から来る。巧い脚本だと思う。18人からの登場人物がきちんと描き分けられ、病んでいる一族の内情が次々に明らかになる。クレオンにあたる是雄(中田顕史郎、佐藤誓病気休演中の代演)を見ていると、クレオンのような手ひどい運命の報いを加えてやりたくなる。なんで助けるんだろ、やさしいな。しかし、是雄が俊(外波山流太)を殴った後、散らばったお菓子を拾い集めて器に戻すのを見て(骨の髄から悪い奴なら戻さないはず)、この人は単なる父権の容れものにすぎず、権力さえないなら無害な人間、いや犠牲者なのかもしれないと考えが変わった。

 終幕、あずみと伊織(永池南津子)姉妹が去ってゆくまぎわの、葉月(婚約者、浜野まどか)の涙を含んだ緊迫した表情が、とてもうつくしく、フォトジェニック。お母さんの江利子(水野あや)が、かわいそうだったなあ。

 皆力演だが、前半セリフに力が入って裏返るのが惜しい。セット吉田五十八みたいで素敵。物語を支えて力ある。