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世田谷パブリックシアター りゅーとぴあプロデュース『エレクトラ』

 ほんとうに怒ると、人の怒りは破壊的で、自分をも他人をも滅ぼさずにはおかない。自分の怒りでありながら、制御できず、自意識は怒りに仕える巫女さんのようになってしまう。「いま、怒ってらっしゃいます」みたいな。おてあげだ。自分でも、どうにもならないのだ。

 してみると、高畑充希エレクトラは、怒りにリミッターをかけていたように見えた。上限と下限、見やすいように、きちんとサイズが決められている。サイズが小さい。怒りのあまり、自分でもびっくりするような声が出る、って感じじゃない。現代風。

 そのかわり、オレステス村上虹郎)とのやりとりは、新しい野菜の青い茎をぱきっと折ったとき、水気がさっと飛ぶようにみずみずしく鮮やかだ。エレクトラオレステスクリュソテミス仁村紗和)も、この病んだ家庭で苦労している子供たちに見える。

 実の母クリュタイメストラ白石加代子)が愛人アイギストス横田栄司)と謀って父アガメムノン麿赤児)を殺した。文句のつけようがないほど非道な話だが、クリュタイメストラの話を聞くうちに、この人にも掬すべき理由があると思っちゃうのである。娘イピゲネイア(中嶋朋子)をアガメムノンギリシア軍の風待ちのいけにえにしてしまったこと、トロイア戦役でプリアモスの娘カッサンドラを連れ帰ってきたこと、白石加代子が「傲慢なあの男」と力を込めて言うと、幾千、幾万、幾億の、「あの男」たちが目に浮かび、一瞬で彼女の味方になってしまうのだった。アイギストスだって、アガメムノンに復讐しただけともいえる。ちいさな家族の大きな悲劇、この『エレクトラ』は、ギリシア悲劇であることを越えて、現代まで連綿と続く家族の復讐の悲惨を訴えるものになっている。