秋田雨雀・土方与志記念青年劇場 第116回公演 『梅子とよっちゃん』

 「あんまり好かないから。西洋人ぶっているから。」

 控えめに、身を固くして登場した田村俊子(片平貴緑)は、築地小劇場に参加しない理由をこんな風に言う。

 土方与志とその仲間たちが作り上げた、鷹揚で明るく知的な雰囲気を、外側から批評する目、この視点が場面を引き締め、見る価値のあるものにしたと思った。

 土方与志は演劇に全体重を預け、一筋の人生を送った人である。父の自殺、持ち重りのする爵位、弾圧、亡命同然のソビエト行き、投獄と、事は多いが、彼が信じていたのは演劇だった。与志(船津基)とともに歩み、舞台衣装家になる妻梅子(池田咲子)は、何も知らない貴族の令嬢から、目的を持つ一人の女になり、いつか夫を問い詰めるまでに成長する。

 「日本の演劇の原点」、「築地小劇場に7億出資した人」(ウィキペディア)、「華族」、どれをとっても自分から遠く、ひゃーって感じだけど、この芝居を観て、与志のみならずどのひとも懸命に生きてたのだなと当たり前のことに感動した。特に丸山定夫大石達也)や千田是也(岡山豊明)など、はにかんで笑ったりルパシカ着ていたり、身近に風が起こって、ふと現れたみたいだ。

 梅子さんという人は、パンフレットによると、晩年の入院中、付添いの若い女優さんに、「女優に肌は見せたくありません」と厳しくいったと書いてある。なかなか一筋縄ではいかない人ではなかったか。「女優に」だよ。梅子に成長(セリフ回しの変化とか)と、複雑さ(台本にも)が欲しいです。梅子はよっちゃんがなぜ好きになったのかな。そこがすこしわからない。

 与志が作中で願ったように、「本当の自由」が、いつまでも続きますようにと思わずにいられなかった。