シアターコクーン・オンレパートリー2017 『プレイヤー』

 先週お能観たばっかりだからかもしれないが、異界って、目に立たないほどのゆるやかな坂をすり足でのぼり(あるいは下り)、気づかぬうちにたどり着いている場所なのだろうと思う。あるけどない、ないけどある、そんなところ。作者の前川知大も、異界について、パンフレットで能楽師の方と対談していた。

 地方の公共劇場が主催の、演劇公演の稽古場。地方の俳優、若手、有名ベテラン俳優があつまって、今は亡い新人作家の「PLAYER」という芝居の稽古をしている。「PLAYER」では、ある瞑想ワークショップの団体の中に、「死者」となって友人の肉体(それをPLAYERと呼ぶ)を通し蘇ってくるものが現れる。死者を通じてこの世界を再生しようとする指導者時枝(仲村トオル)に、警察官桜井(藤原竜也)は次第に浸潤されていく。

 入れ子構造の二重の芝居というけれど、そもそも演劇が皆で何かを共有し、テキストの言葉を立ち上げる「PLAYER」のものなので、実際には三重四重の複雑な構造である。最後の気が付いたら違う場所にいる感じが飛びぬけて素晴らしい。観ている私も浸潤されたと思うのだった。

 ただ、カルトの人々の言っていることがとても紋切り型で入りづらく、芝居の奥行きが能のあの、「観たこと全て夢」の「なかった感」に及ばない。「わたしという個人から解放される場所」と時枝が云うと、すぐに禅や能のことを考えたのに、馬場(本折最強さとし)の冥界めぐりのシーンなど浅く、「なま禅」風に仕立ててあるのかなーと思った。

 藤原竜也、冒頭の役に入り込む瞬間がわかりにくくて、そこが好き。足の裏がちょっと狭くて、場の空気がもひとつうまく吸えてない。白石加代子に似せた声は、あまり効果的でないと思う。