新国立劇場小劇場 シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV vol.3/4 『ワーニャ伯父さん』

 揺れる葉叢、大きい葉、小さい葉、浅瀬で模様を描いて透明に盛り上がる小川の水、花、滴をためるくもの巣、丸く差し込む日の光。景色をぼーっとみていると、一つ一つが異なる音を発しているような気がしてくる。「調子」を感じる。このケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の『ワーニャ伯父さん』にも、はっきり「調子」がある。

 婆やのマリーナ(水野あや)が編み物をし、エレーナ(宮沢りえ)はお茶を飲み、ヴォイニーツカヤ夫人(立石涼子)は読書に余念がなく、アーストロフ(横田栄司)は疲れ、ソーニャ(黒木華)は恋を隠す。ワーニャ(段田安則)はエレーナに魅かれていて、おおっぴらに大仰にそれを語る。

 交錯する思惑の違い、人々の佇まいのそれぞれの音が絡み合って、本当に美しい。その美しさは、「100年たったら」この絶望や哀しみが消えてしまう、覚えられてやしない、ってところから来るのだ。

 アーストロフが統計グラフをエレーナに見せて説明するが、エレーナはアーストロフのことを考えていて、アーストロフをじっと見る。こことても可笑しい。アーストロフは情事(森の番小屋)を思い、エレーナは「一生に一度」の恋を思う。この調子のくいちがい。可笑しく、悲しい。

 エレーナが出ていくと叫び、ワーニャが自分の行為にショックを受け、ソーニャが婆やを呼ぶシーン、ケラはここを3人とも同じ調子の音にそろえるのだが、私は高さの違う音の方がいいと思う。

 セレブリャーコフ(山崎一)が、明らかにそんなには痛くない痛風で大騒ぎしているほかは、案外嫌な奴ではない。ワーニャのあれほどの絶望を誘い出す、とすれば、もう少し絶対的なのでは。黒木華の凛とした声と心に動く恋のかげが、芝居を深いものにしている。