シアターコクーン・オンレパートリー2017 『危険な関係』

 中央に引っ張られ、皺を見せ、緊張を見せる左右の黒い幕。誰にも明かさない胸の奥。原作のいろいろのせいで、信賞必罰のはなさか爺さんみたいな話かと思っていたよ。ところがこれは、高度で張りつめた駆け引きと、洗練と退廃の極みの登場人物による、怖くて面白い舞台だったのだ。

 かつての愛人ジェルクールに復讐するため、男には決して屈服しない女メルトゥイユ侯爵夫人(鈴木京香)は、恋の好敵手で共謀者のヴァルモン子爵(玉木宏)を動かして、ジェルクールの婚約者セシル(青山美郷)を堕落させようとする。一度は断ったヴァルモンだったが、自分の言い寄っているトゥルヴェル法院長夫人(野々すみ花)にヴァルモンと付き合わないよう忠告したのがセシルの母のヴォランジュ夫人(高橋惠子)だと知り、メルトゥイユ侯爵夫人の思惑に乗る。

 話が進めば進むほど、芝居は息詰まる展開となり、餌食となる人々の成り行きや、メルトゥイユ夫人とヴァルモンの「主導権」を巡る戦いに見入った。特にプレイボーイで、モラルも全然ないヴァルモンが、トゥルヴェル夫人にふと心の素肌で対応してしまうところなどすごくすてき。

 ただなー。序盤が惜しい。メルトゥイユ夫人とヴァルモンの会話シーンに、余裕と退廃と悪意と哄笑が足りない。交わされるセリフが瘠せている。退廃はヴァルモンの馴染みの女エミリー(土井ケイト)が一手に引き受けていて、スライドドアに押し付けられる生々しさに肉体を感じた。ダンスニー(千葉雄大)が、凄く垢抜けない人柄で、凄く垢抜けない服装だ。謀略と洗練こそが正義、それに観客もダンスニーを笑うことで加担する。終幕、胸の奥の暗さを思う。しかしそこには歳月の皺と醜い引き攣れがあるのだ。