東京芸術劇場 『William Shakespeare's Richard Ⅲ リチャード三世』

 あら。プレビューだったんだね。

 舞台闇。目の奥の方へ、奥の方へ、後退してくるような、抉ってくるような闇。滴るような濃い闇だ。ゆっくり客席が暗くなり、激しいドラムのリズムに揺れる人々が現れる。全員が糊のきいた白いシャツと、黒いパンツを身に着けている。サックスが見える。パーティだ。エリザベス朝風の襟とカラーをつけた髭の代書人(渡辺美佐子)が、舞台前面に歩いてくる。手術室の無影灯に似た蜂の巣状の照明。セメントブロックを高く積み上げた絵の描かれた三方の幕。中央正面にリチャードらしき長身の男(佐々木蔵之介)がいて、リチャードの有名な冒頭のセリフを語り始める。それが気の利いたスピーチであるかのように、パーティの男たちは皆、リチャードの言葉の合間にどっと笑う。リチャードが己の姿を呪う言葉を吐いても、笑う。男は化粧をし、輝くように美しいのだ。だから呪詛は、おどけた言葉にしか聞こえない。

 なんとなく、自分がいやな気持になっているのに気づく。男だけのパーティ、男だけの冗談、男だけの秘密結社、決して女には明かされない秘密を演じているのを目撃している気になる。それは秘密の井戸で演じられる。シェークスピアのセリフは「ずらされて」いるが皆ぴったりに響く。今井朋彦のマーガレットの呪いが全編に深く効いている。

 リチャードが追いつめられてゆくシーン、不意にエチオピア風、演歌風の節にあわせて歌が始まるところ、ここ、難しかった。今まで心に重層低音が響いていたのに、突然チューンになる。このシーンで、客席に激しく笑う「女の人たち」がいたのだが、それがまるでリチャードへの復讐の、芝居の演出の一部に感じられ、そこでシーンが完成したような気がしたのだった。