Bunkamuraシアターコクーン DISCOVER WORLD THEATRE vol.3 『欲望という名の電車』

 大竹しのぶがもうすでにこの芝居で紀伊國屋演劇賞を受賞している。えええ?見物しようと靴ひも結んで顔をあげたら、ゴールしている人が見えたような気持ちー。でもそれも仕方ないのだった。圧倒的な集中力、圧倒的な演技で、大竹しのぶは芝居を引っ張っていく。

 白い服のブランチ(大竹しのぶ)が、辺りを見回しながら、客席から舞台へあがる冒頭シーンでは、その細く尖った頤が、プリーツを畳んだ透きとおる襟の中で品よく繊細そうに見え、ユーニス(西尾まり)の野卑なざっくばらんさと対称的である。妹ステラ(鈴木杏)とその夫スタンリー(北村一輝)のいない部屋に入ったブランチは、すばやく酒瓶を見つけ出し、すばやく一杯やる。この役柄の幅、大竹しのぶはこの幅を自由に泳ぎ、目の前でブランチを織り出してみせる。観客は一瞬も芝居から気が逸れない。倒れたまま、医師(真那胡敬二)に向かってブランチが片手を預けようとする場面では、劇場中がブランチの指先の一点に集中し、固唾をのんで成り行きを見つめているのがわかった。

 欲望という電車に乗り、墓場という電車に乗り換えて、六つ目の角で降りた天国にあるステラのアパートに、姉ブランチはやって来る。彼女には夫も子もない。そのことは彼女を欲望から最も遠く、最も近いものにする。芝居はその憧れを蛾とランタンに例え、私たちに提示する。

 スタンリーの癇癪は、その背後に戦争のPTSDを隠しているように思われ、ステラの芝居はブランチの感情にしっかり補助線を引く。

 終演後、ブランチになっていた。ついていてくれるのが真那胡敬二と明星真由美であることが嬉しい。最後の一瞬、名の通った俳優に付き添われることが、何だか敬意ある救いのように思えるのだ。