彩の国シェイクスピア・シリーズ 第33弾 『アテネのタイモン』

 「俺をほめたじゃないか!」

 財産を失い失意の底にいるタイモン(吉田鋼太郎)が、軍を率いるアルシバイアディーズ(柿澤勇人)の胸ぐらをとって叫ぶ。金があり、友人たちに恐ろしく気前よく振る舞っていたころの自分に対する言葉を、タイモンは責めるのだ。

 うーん、ほめたのを責められるのかー。と、再々芝居を観に行ってほめたりほめなかったりしている自分のことを考える。

 思えばタイモンとタイモンに鏡を突きつけるように文句を言うアペマンタス(藤原竜也)は、シェイクスピアと批評家のようだ。シェイクスピアだって、飲み屋に行けば、「あれはちょっと」とか、「あそこよかった」って、絶対言われていたに違いない。だがアペマンタスが批評するのは芝居じゃない、タイモンの人生そのものだ。破産したタイモンにアペマンタスは食べ物を与えようとするが、タイモンは受け取らない。タイモンは人間に絶望する。金を見つけてもそれでまた屋敷を持とうとはしない。彼はあらゆるものを憎み、嫌厭する。彼は人生に戻らない。そうすることで彼はアペマンタスのような「批評家」を越え、「批評」そのものとなる。アテネに対する批評、人間に対する批評、この世に対する批評。

 芝居は蜷川幸雄へのオマージュから始まる。ガラガラと運ばれてくる衣装ラック、体をあたためる俳優たち、合間に置かれた二枚の姿見。蜷川の演出には蒼ざめたスタイリッシュさがあったけれど、吉田鋼太郎はもっと陽気で、カラフルだ。わかりやすく、その上で蜷川の遺産をよく使いこなしている。藤原竜也のアペマンタスは迫力があって私は好き。足の裏広くね。取り巻きがタイモンを囲んで階段を下りる時の「お追従歩き」が面白かった。河内大和のセリフは目立ってよく届く。柿澤勇人、とてもいいのに、叫びすぎだよ。