ブルーノート東京 ジョン・ピザレリ

 セカンドショウを終えたジョン・ピザレリが、小さな丸テーブルの前に腰かけ、軽くお酒を飲んでファンにサインをしている。

 ナット・キング・コールで聴いた曲、チェット・ベイカーで聴いた曲、勿論シナトラ、勿論ジョビン、今聴いたいろんな曲が、酵母みたいに体の中でふつふついってる。

 ブルーノートの舞台は思っているより狭く、ギターのピザレリ、ベースのマイク・カーン、ピアノのコンラッド・パシュクデュスキ、ドラムスのアンディ・ワトソンがぎっしりと立つ。黄色いギターに黄色の明かりがあたり、ピザレリは少し眩しそうにする。きらきらに磨かれたスタンウェイの鍵盤蓋にピアニストの早く動く指が映って、右の高音部に向かってかっこいいフレーズが移行していくのを見守る。ギターのストロークで右手が小指側と親指側に揺れる。口で歌う速いスキャットと、指さきが弾く絃が、凄く揃っている。2曲目、3曲目とどんどん集中がたかまり、はじける泡のような音がピアノとベースとギターとドラムスで、ナイフで削って組み合わせたようにぴったりだ。音が大きくなる。素晴らしいグルーヴ。ピザレリは大きな声を出さない。必ず声を上にぬく。歌い上げないんだなと思う。デリケートなのだ。

 フェイスブックもない時代にどうしてシナトラはジョビンと知り合いになれたのかなとジョビンの孫のダニエルに聞いた。シナトラはジョビンに直接電話を掛けたんだそうだ、というような話をする。朝六時から昼までジョビンは仕事をして、そのあとは「バーに行く」。ふうん。

 その話の後はボサノバを歌う。最後はものすごく達者にディランやビーチボーイズを歌ってくれる。ジェームズ・テイラーには瞠目しました。