蜷川幸雄三回忌追悼公演 埼玉公演 『ムサシ』

 あのー、あの、蜷川さん怒るかなあ、まえ(2013)観た時より面白かった。蜷川さんの『ムサシ』は、最上等の布地に、考え抜かれた型紙を置いて、布は無駄が出ないように厳しくカットされ、ダーツ一本にも思想がある感じだったけど、今日の『ムサシ』は、仕立てあがった蜷川さんの服をよーく見て、俳優たちが縫いしろぎりぎりまで「だしている」気がした。結果、かっこよさは少し薄まるけれど、芝居全体がふっくらし、縫い糸はどことなく浅草軽演劇調で、気安く笑え、深く考えさせられる。つまり井上ひさしの本質に、より近づいたといえる。

 ただ、縫いしろぎりぎりすぎて、溝端淳平の芝居からは、縫い目から下に着こんだポールスミスの(比喩です)白いTシャツが(比喩です)見えてしまい(素で笑わない)、吉田鋼太郎も、もう一回よく見たらやっぱりTシャツが見えるかもしれない。武蔵(藤原竜也)と小次郎(溝端淳平)は、えらくなっちゃう前のミフネのようにセリフを叫ぶ。それはそれで成立しているのだが、「叫びながら話しかける」というレベル一つ上がった所がうまくいってない。相手に言葉がかかってない。あと足音うるさいよ。比喩じゃないです。

 白石加代子の蛸は、可笑しい中に死んでいくものの無残が匂い、芝居の背骨をきりっと立てている。武蔵と小次郎がたたかわないように、六人五脚になるシーンはとてもばかばかしく面白く、かたき討ちのためのすり足の稽古は様になっていた。

 皆が正体を現して、見つめあう武蔵と小次郎。引き締まったいい場面だ。

 パンフレットに飯田邦博があげている蜷川さんの言葉がかっこいい。すてきすぎます。