椿組2018年春公演 『毒おんな』

 (あのひとだあのひとだあのひとだ)

 美しい秋野楓(小泉今日子)、薄く黄味がかったアイボリーホワイトの手が、濃い水色のワンピースからのぞき、肩までの髪は揺れ、白い顔が真剣に男たちの方に振り向けられる。しかし、そのはいている靴は、エナメルのウェッジソールのパンプスで、踵には黒地を引き立てる金の飾りがついている。もうさ、ここでばれちゃうよ。この人が、死刑囚のあのひとをモデルにした、一筋縄ではいかない女の人であることが。靴はいろんなことを語ってしまう。金回りのよさ、上昇志向、自己主張、その他。

 楓とそのモデルをはっきり分けるのは、楓がその場の空気の流れを変えるほど美しいということだ。

 話はめっぽう面白い。美しい女が、チーズを作っている牧場(この設定がナチュラルに見える不思議)に、DVの内縁の夫から逃れてくる。色めき立つ男たち。女たちも平静でいられない。

 楓の過去が牧場に侵入してくるシーンは、異物の紛れ込む奇妙な空間だが、一瞬時空を止めて「異物ですよ」とお知らせしなくても、小泉今日子の少女にかえった首を振る芝居が、すべてを支えてくれるはずである。がんばりどころ。

 現実にこのような事件が起こると大抵いつも、「若い女に惚れられる男の自惚れ」に目が行く。外波山文明、うぬぼれていない。もっとうぬぼれたりがっかりしたりしてほしい。

 過去と現在がうまくくっついているのに、楓の「すべてを雪が隠す」という述懐は、この話の芯になりきれていなかった。「三百」と楓がいう所が、芝居の分水嶺だと思うけど、演出の人はどう思ったのかなー。「さんびゃく」以降、獰猛さが垣間見えた方がいい。