劇団民藝 『神と人とのあいだ 第二部 夏・南方のローマンス』

 『神と人とのあいだ 第二部 夏・南方のローマンス』1970年。別役実岸田戯曲賞受賞が1968年と知り、ふーんと思うのである。『夏・南方のローマンス』って、一度も役名で呼び合わないし、派手な服(赤いブラウスにグリーンのフレアスカート)の女(漫才師である=桜井明美)と、誰だかわからない兵隊服の男(齋藤尊史)とのやりとりは、まるで乾いた不条理劇のように面白いのだ。

 そう思ってみていると、木下順二の指定に肉付けしたセットのありようは、別役みたいな電信柱を登場させていて、時代の後先を、凄い力でつなぎ合わせているような気がする。残虐な拷問の行われる南の島、戦後の日本の公園、客席と、砂の敷き詰められた舞台面も、どこまでもどこまでも拡がるような気がする。そして神に向かって伸ばす手のような木。

 女漫才師の恋人(塩田泰久)は南方の島にいながらブランコのさがる骨組みにひととき登って足を掛けたり、手を広げきれいな十字を作って、受苦の人であることをさりげなく示す。紗幕の開いた後、どのシーンも掩蔽壕の中にあり、壕は空に向かって口を開けている。全てが「真実」から身を守っているように見える。

 ここに一人残る派手な服の女は、きっと掩蔽壕からでるのだろう。出られるだろうか、星空がそこから覗く。神さまへの異議申し立て、それが演劇の役目ってことじゃないの。

 桜井明美、冒頭恋人を「悪い奴」と呼んだりするのだから、「恋愛のデーモン」がちらりとでも見えたほうがいい。齋藤尊史、ほんとに兵隊に見えた。参謀の本廣真吾、おもしろい役なのであまりひかえめにしなくていいのでは?塩田泰久、またお芝居観にいくので、油断しないようにね。