25YEARS ANNIVERSARY NYLON 100℃ 45th Session 『百年の秘密』

 僕が月を見ると、月も僕を見る、という子供向けの詩があったように思うんだけど、客席に入って舞台を見ると、おなじような気持ちになるのだった。

 屋敷の中に巨大な木。僕が木をみると、木も僕を見る。チェーホフの登場人物は100年後に思いをはせるけど、『百年の秘密』の楡の木は、100年後の方から「私」を見、遠い過去からも「私」を透視する。視線の往還。登場人物たちのやや仰角の視線と、木の俯瞰の視線が、皆を「いま」に留めつける。シーンが重要な展開を見せるたび、そこは木のある廃墟にも思えてくる。

 ベイカー家の娘ティルダ(犬山イヌコ)とその親友コナ(峯村リエ)の12歳から死後までが、行きつ戻りつ語られる。

 戯曲を開くと、まず目に飛び込んでくるのが「百年の秘密」関係図だ。40人近くの相関図に思わずいったん頁を閉じる。すごい。『祈りと怪物』で、たくさんの登場人物が一人の男に収れんしていくのを凄いと思ったが、この芝居も力業だ。そして全体の陰翳がパズルのように組み合わされている。

 ナイロンの役者の芝居はみな内実を持っていて充実しており、観るのが本当にたのしかった。

 ただ初日のせいかパズルが少し甘く感じられる。カレル(萩原聖人)は17歳、かがやくような「お兄ちゃんの友達」でないといけない。遠慮しないでハンサムオーラを出してほしい。そうしないとティルダとコナが、木が忠告するほどの「秘密」を抱える動機が弱くなる。廣川三憲のフリッツの、失意(事業の失敗、家庭の不和)が声からうかがわれ好演、さいごの怒りをも少し深くね。松永玲子、老女の少しねじれて突き出した腰つきが完璧。手紙を見つけた時、もうちょっと動揺してもいい。