TOHOシネマズ日比谷 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』

 踏むと弾力を持って靴裏を押し返してくるあたらしいカーペット、3月29日にグランドオープンした日比谷ミッドタウンのTOHOシネマズ日比谷は、映画館にしては4階と高層でなく、ながい通路の大きな窓越しに、日比谷公園のもくもくと盛りあがる新緑の欅の群が見える。

 おもえば、クリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』って、世界のおじいさんというおじいさんが、「よし!」ともろ手を挙げて寿ぐような映画だったけど、この『ペンタゴン・ペーパーズ』は、世の中の中高年女性がみな嘉し、また映画によって嘉されるような作品なのであった。

 語られるのはアメリカ政府が何十年も秘匿してきたベトナム政策とベトナム戦争の真実を、明かそうとする新聞社の戦いなのだが、その中心に立っているのは、一人の中年女性である。

 ワシントン・ポスト社の社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、夫の死によって、主婦からその地位についた人だった。株式公開を控え、ベッドにまで書類を持ち込んで勉強しているシーンで彼女は登場する。キャサリンには自信がない。主婦ってお金持ちだろうがそうでなかろうが、求められるのは「感じがいい、niceである」ってことで、それ以上ではないもの。社のブラッドレー(トム・ハンクス)にはぴしゃりと「口を出すな」と言われる。むかつくー。でもキャサリンの態度は、私たちがよーくしっているあの、「私に非がある」申し訳なさそうなそれなのだ。最終決断を迫られたメリル・ストリープは圧巻だ。血が波立ち、世界がぐらぐらする中で女は受話器を握っている。「とても決められない」と、体の中の「niceなひと」が慄える。彼女は決める。彼女の皺を美しく思う。それは皆奥深い感情の静かな波紋のようだった。