イキウメ 『図書館的人生Vol.4襲ってくるもの』

 「き、斬れぬ」とかいうのである。頭の上に巨岩を想像して暮らす剣豪に対して。坂本竜馬だったかなあ。

 あらゆる人の頭の上に、大きな黒い岩が浮かんでいる。それが落ちてくる。

三話のオムニバス。一話目、認知症になってしまった脳科学者山田不二夫(安井順平)は、まだ衰えないうちに脳の機能、自分自身を「マインドアップロード」して、見た目寄せ木細工の小さな矩体に姿を変える。息子(盛隆二)、協力する研究者(森下創)、妻(千葉雅子)は彼を受け入れるが、もっと「人間らしく」するために、「嗅覚」=記憶のセンサーを取り付ける。寄せ木細工の函と化した不二夫を記憶が襲う。センサーを外してくれという不二夫の頼みを、周囲がなかなか聞き入れないのがこわい。この、本人の意見の通らない感じが、三話目に持ち込まれている。「よかれと思って」意思を無視され続ける女子大生(清水葉月)。一話目ではコーヒーの香りが重要な役割を果たすのだが、千葉雅子の淹れるコーヒーは本当に香りを放つ。きっと熱いお湯を使っているのだ。気を付けてね。

 二話目、意志とは違う衝動に負け続ける男(大窪人衛)。衝動に負けることが宇宙の均衡を守りより良い世界を作っていると考え、身動きが取れなくなってしまう。

 頭の上の黒い岩、「記憶」だったり「衝動」だったり「強制」だったりするそれは、究極には「死」なのだろうか。「死」は動かし難い運命だけど、一人一人の個人につきものの別々のもので、別々に享受されるべきものだと思えてくる。 

 安定の仕上がりで誰もがかっちりと自分の役を演じる。清水葉月と小野ゆり子のやり取りなどよかった。