唐組・第61回公演【唐組30周年記念公演第1弾】 『吸血姫』

 どんなに遅い番号でも、10番台でないと嫌だったあの頃、最前列で、水やらなんやら浴びたり、突如舞台奥のセットが取り払われ、春や秋の冷たい空気がわっととびこんできて、クレーンだのなんだのでヒロインが飛び去ってしまうのを、握りしめた両手を拍手のためにようよう引き離しながら観た、と。

 もう根津甚八小林薫はいなくて、佐野史郎が必死で紅テントを支えていた、ごく後期の状況劇場だった。

 久しぶり、たぶん30年ぶりに来たテントは、ちっとも変っていなかったが、私は変わった。体操座りがしんどいの。芝居は『吸血姫』、単行本も全集も持っていて、海之ほおずきの登場シーンなど、おぼえてしまいそうだった。意味不明、唐さんのつま先が(イメージです)、水の上を石切りするみたいにとんとんとーんと先走っていって、凄い勢いで連れまわされる感じが好きだったと思う。

 まず最初に感じたのは、状況劇場調の台詞回しは、今はもうないってことと、「つりこまれる」危険な感じが、薄いってことだ。狭いテントの舞台奥から、なんかわかんない水が(イメージです)、汚い水きれいな水地下水のように隠された禁忌の水が、どーんと流れてきたりしない。皆忠実に台詞をいう。河出書房がなくなって河出書房新社になったというような昔の話をカットせずにやっているのに驚いたし、銀粉蝶はもっと見たかった。

 海之ほおずき(さと子=大鶴美仁音)は、高畠華宵の口絵に見えるくらい一生懸命やっている。前半がいい。

 禁忌をおかして禁忌を呼び込み、愛や青春と切り結び蹴散らして、テントのかなたで輝いてほしい。昇る星と沈む星が、同義であるような、いかがわしくも美しい魔法が、また生まれますように。