恵比寿ガーデンシネマ 『29歳問題』

 鏡を覗く度、まつげがみんな手を伸ばして、「タスケテ!」と言ってる気がしたあの頃、あの加齢不安、あれ30才くらいだったのかなあ。こういう時、いつも『風と共に去りぬ』の出産に関するスカーレットの言いぐさ、「いい具合に苦痛でぼやけて」っていうの思い出す。スカーレットって、めっちゃ前向きの人だったよね。

 目をつぶっている美しい女の顔、やがてそれをみひらくと、すこし充血した目に涙が溜まってくる。この人の名前はクリスティ(クリッシー・チャウ)、29歳。「仕事」は順調、長く続いた「恋人」がいて、人生は前進あるのみ。その頃って、ふと自分の手持ちの札を見返してしまう時期なのだろうか。「仕事」大きな役職、やり通せるか不安。「恋人」いつもちぐはぐな関係で、結婚話が出ない。「家族」忙しい彼女に認知症の父親が電話をかけてくる。クリスティのスタイリッシュなマンションに水が漏り、大家は立ち退くよう迫る。当座の住いに借りた古いフラットで、貸主の娘(ジョイス・チェン)の日記を読み、その明るさと欲のなさに、クリスティの心は変わってゆく。

 フラットをかりるまでが長く、構成が迷走しているように感じるが、ちゃんと計算されている。6:29のデジタル時計をばしっと切るところなどかっこよく、小気味よく撮れている。美術もすてき。ただ、ジョイス・チェンがとても惜しい。「屈託なさそう」なのではなく「屈託なさそうに見せ」ているし、「笑ってしまう」のではなく「笑って見せ」ている。これは、後段現れる彼女の告白とは関係なく、演技上の問題だ。隣でホンミン(ベイビージョン・チョイ)が、さりげない芝居をするので余計目立つ。

 エンドロールの、2005年からの芝居のカーテンコールをさらっと見せるところで泣く。段々に芝居が育っているんだもん。