シアターコクーン・オンレパートリー2018 『ニンゲン御破算』

 「吾胸の底のこゝには 言ひがたき秘密(ひめごと)住めり」っていうの思い出しました。心の底に頭蓋の奥に棲みつく、もう一人の私。

 幕末。錦旗を押し立てた官軍と、彰義隊とが相争っている。そこへ割って入るお弁当売りの女お吉(多部未華子)は、官軍に入った黒太郎(荒川良々)と彰義隊に味方するその弟灰次(岡田将生)と同郷だ。黒太郎、灰次のマタギ兄弟には、侍になりたさに殺人の密命を果たした勘定方実之介(阿部サダヲ)を脅した過去がある。その実之介は南北(松尾スズキ)と黙阿弥(ノゾエ征爾)に狂言作者として弟子入りしようと、身の上話を金を払って聞いて貰う。

 さっきの歌はこう続く。「身をあげて活ける牲(にへ)とは 君ならで誰かしらまし」、藤村の歌だけど、この『ニンゲン御破算』って、いつも誰かが誰かの犠牲になっているのだった。芸人の捨て子お吉は村の犠牲になって女郎に売られ、実之介は殺人の責任を押っ被されて殺されそうになり、黒太郎は暗殺の首謀者に仕立てられる。蛇が尻尾を喰いあうように、家の犠牲、作者の犠牲、犠牲が犠牲を生み、この世の弱肉強食やそれがねじれた円環を成してゆく様を、観客は3時間にわたって眺めつづけることになる。

 阿部サダヲ、体のキレもいいしめっちゃ頑張っているが、最後、声に背負わせすぎでは。変化って、そういうもんでもないような。ノゾエ征爾の土方歳三、目をこすって二度見するくらいかっこいい。岡田将生

 灰次 …知ってたよ。俺よく茂みにいるから。

という台詞は、ここ、少し工夫してほしいです。あとカーテンコールの時、着物邪魔くさそうにするけど、するなら灰次で、もすこしきれいに邪魔くさそうにしてください。