二兎社公演42 『ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ』

 最後にニュースを真剣に観たのは、オウム事件の時。あの時オウムの信者がテレビにでて、その「言い分を聞く」体裁の番組が随分あった。オウムは神戸の地震を、「地震兵器の仕業だ」としていたが、スタジオでそのことを追及されると、東大生のかわいい顔をした信者が、こういったのだ。「こう考えたらどうでしょう。地震兵器は一つのメタファーだと。」さすがにこの発言はすぐさまその場の怒りを買っていたよ。だけどこの頃思うのだ、どこにでも不都合な真実を巧みに糊塗し、ずらし、隠ぺいするこの手の利口な人々がいて、その人たちが一番たちが悪いと。

 今日の芝居は最初から最後まで同じ場所、議事堂を望む国会記者会館の屋上で繰り広げられる。国会記者会館。地下二階、地上四階、衆議院事務局が建て、土地と建物は国有で、家賃はタダ。(ザ・空気用語解説より)くすんだどこにでもある屋上だけど、ただ一点、建物の壁の肌はものすごいイガイガの凹凸で仕上げられていて、不用意に触ったもののすりむき傷を簡単に想起させる。一筋縄でいかない「国会記者会館」なのだ。この建物の屋上からデモを撮ろうとするネット記者井原まひる(安田成美)は、総理の記者会見の想定問答を、不祥事を追及すべき記者が自ら進んで書き、かつ置き忘れたという椿事に遭遇する。告発しようとする若い記者小林(柳下大)、その証拠を受け取る他紙の官邸キャップ及川(真島秀和)。そして事情を知っているらしい小林の上司飯塚(松尾貴史)、首相側近としての地位を挽回しようとしている大手放送局の秋月(馬渕英里何)。みなぴったりにそれらしく演じ、隙がない。それぞれが役柄の暗い影、それなりの正義を掴んでいる。特に馬渕の秋月は、善人悪人を簡単にジャッジできない人物だ。最後の「フラフラでくらくら」な展開につながるように、上手に飯塚を怒鳴ってほしい。