ポレポレ東中野 『乱世備忘 僕らの雨傘運動』

 香港の普通選挙を求める雨傘運動について、つめたーい気持ちでいるのである。それはかつての若い自分を見ている気分だ。熱くなりやすく善悪の判断がはっきりしていて、しかもそれを口に出し、行動にすぐ移す。おかあさんに行っちゃいけませんと言われたら決してデモに行かない人、立派に就職してバブル経済などひきおこす人たちに煽られる。潮が引いた後はまるで『大菩薩峠』(小説)みたいな混沌とした世界に残る。地図もなく、一人。けがしてたり、してなかったり。

 2014年9月27日夜の、デモと警察の間のフロントラインの緊張をカメラは撮る。「警察は撤退せよ」「公民広場は市民のものだ」表情を動かさず眼は間断なく警戒している警察官の隊列、「あなたも香港人でしょう」という声が虚しく響く。Do you hear the people sing /Singing a song of angry men 慄えるような小声で学生がうたい、何人かが唱和する。「感傷的だね」感傷的、その通りだ、しかしそのセンチメンタルの中で私は了解した、いまこの人たちは勝てると思っていない、天安門事件のようなことや逮捕のことを考えている、負けるかもと思っている。ドキュメンタリーはこのぎりぎりに、ようよう踏みとどまった若い人たちを映す。カメラがこの冒頭シーンのように緊張し、横並びの警察官の迫力あるショットが登場することはもうない。ただ雨傘運動を支えた大学生の生態が一つ一つ綴られていく。英語教育の勉強をしているラッキー、法学を学ぶ、弁護士にぴったりの頭の切れそうなレイチェル、女子中学生、テントを立てる髭の青年。

 上映後、登場人物のその後を監督が教えてくれたが、写真のレイチェルは、何だか悩みが深そうだった。だから私は彼女と昔の自分に、壇一雄の言葉を贈る気になったりした、「人皆必敗の戦士である。」