シアタークリエ 『大人のけんかが終わるまで』

 ヴィヴァルディがストーンズに割って入る。このヴィヴァルディが、岩からしみだしてるように悲しい。哀切。

 愛人ボリス(北村有起哉)の車で素敵な高級レストランに出かけることになったアンドレア(鈴木京香)は、怒っている。「外で吸えよ」とボリスに言われても、ふーっとツーシーターのかっこいい車の中でたばこの煙を吐く。これから出かけるレストランが、ボリスの妻パトリシアのおすすめだと知ったのだ。そのうえ、ボリスは妻が遠方に出かけて留守だからアンドレアと出かけたらしい。アンドレアの機嫌はどんどん悪くなる。この二人の会話がなんか可笑しく、老女イヴォンヌ(麻実れい)がよちよち出てくるところなど、まだイヴォンヌが一言も発してないのに、笑ってしまった。イヴォンヌは息子エリック(藤井隆)とその事実婚の妻フランソワーズ(板谷由夏)と、誕生日を祝いにレストランに来たのである。フランソワーズとパトリシアは古い友人、とても気まずい一夜が始まる。

 アンドレアのことがしっかり描かれた戯曲で、芝居が進めば進むほど、彼女の中のヴィヴァルディが際立ってくる。この脚本に、鈴木京香はたいへんによく応えていると思う。ボリスと付き合った4年間、(その4年で年を取ったという気持ち)、服も靴も新しくそろえた気持ち、それがぺしゃんこになり、コデインの錠剤を口に放り込むのが次第に頻繁になっていく。残念なのは全員の台詞のテンションがばらばらで、「打てば響く、ずれた会話」になっていない所だ。そこが大切なのに。フランソワーズ、中身はきちんとできているが、外から見たらどんな人なのかが今ひとつわからない。どんな人か観客に教えて。イヴォンヌがトイレのメモ帳を見つめる視線がいい。戯画化しすぎとおもうとこもあるけれど。