カクシンハンPOCKET08 『冬物語 ~現実と夢幻のデッド・ヒート~』

 芝居を予約してチケットが郵送されてきた。チケットだけじゃない。「サイリウム」が入ってる。サイリウム=化学反応で蛍光色を発する器具の通称。psyllium。送られてきたのは片手を広げた長さのスティックであった。突然襲う黒い不安。①わすれる②時ならぬときに光らす③壊す 

 乾坤一擲のきっかけに弱い自分が、ほんと残念だ。開演前に鞄の中で、ぽきっとサイリウムが光り始めちゃったし、腕にはなかなかつけられないし、「つけてください」とも言えなくてわたわたしたが、暗い舞台にぽわんと光る明かりの環が、ほんとにきれいだった。

 リングのような四角い屋台に、ビニールが張り巡らされている。ラップに似た透明のフィルム、彼我をはっきり隔て、もろく、見通せて、夢のように巻きつく。

 シチリアに9か月滞在したボヘミア王ポリクシニーズ(島田惇平)は、今にも帰途につこうとしている。それを引き留めるシチリア王レオンティーズ(河内大和)は、妻ハーマイオニ(真以美)にも説得させるが、その説得にとても力があったため、レオンティーズの心には、ふっと暗い疑念が兆し、彼を捉え、包み、翻弄する。この、疑念がレオンティーズに入り込むところがとても難しい。河内大和は、まるで重力が増えたように演じていたが、ここできっと嫉妬は、レオンティーズを食べてしまったのだろう。カミロー(岩崎MARK雄大)はレオンティーズの嫉妬の聞き役だけど、聞いた言葉がそれぞれ違ったように躰に染み込むところが見たい。リアクションじゃなく、ただ、染み込むところが。ハーマイオニが申し開きをするシーン、堂々として、品もあるが、もっと激しくていいかな。アンティゴナス(野村龍一)、ちょっとかるい芝居が異質だった。