池袋芸術劇場 『贋作 桜の森の満開の下  坂口安吾作品集より』

 「芸術の神は嫉妬深い」天才画家は机にそう書いていたが、毎晩紅燈の巷に出掛け、早くに死んだ。

 坂口安吾矢田津世子は、背中にその芸術の神をおのおの背負ったまま向かい合い、恋愛は5年かけて1ミリくらいしか進展せずに終わった。安吾はいい作品をたくさん書いたけど、津世子はそうでもない。残酷だよ。評価の残酷と、真実を見とおす眼(そこに芸術が宿る)の残酷、桜の森は残酷の中にあり、それは切り落とされた歴史と絡む。

 桜の花はまぶたのない眼のようだ。桜の森は「そうでもない」者たちを淘汰する。美しい透きとおるような花の群が、舞台天井から静かに降りてくる。真横から強く照らす明かりで、花びらが金色に光る。

 紙がとても効果的に使われ、場面を縁取る赤いテープが漫画や映画、家や戸を簡単にイメージさせる。このテープもあって、オオアマ(天海祐希)はほっそりした手足の長い物語の中の貴公子そのものであり、早寝姫(門脇麦)との場面がとても小さく、遠く、綺麗に見える。後半頑張ってね。門脇麦の「揺れる」姿はどういう工夫があるのか、静まり返って花を咲かせる巨木と、そこに吹く風をたちまちに表現する。

 前半、ヒダのタクミたちの顛末が、話がはやくて、引きこまれる。しかし、笑わせるやり取りは陳腐化していてゆっくりで、すこし退屈。「退屈でないもの」を輝かせるためにそれも必要だと思うが、若いころ「速くやっていた」っていうことのアラが出てしまっている。

 終盤、御幸の列の交差するシーン、も一つぴりっとしない。ばしっと行きましょう。前述の天才画家は、「フランス行ってフランス人の画家に画をおしえてやる」とうそぶいてたってさー。