る・ばる Vol.24 さよなら身終い公演 『蜜柑とユウウツ ――茨木のり子異聞―― 』

 木造モルタルカンカンアパートに住んでた頃、夜中だったか、早朝だったか、友達がぽつりと言ったのだ、「私あんなに芝居が好きじゃないもん」。「あんなに」のところにる・ばるのどなたかの名前が入り、それはもう大昔のことだけど、今回劇場に来て茨木のり子の素敵な家のセットを見ていたら、ひょいと思い出したのだった。る・ばるより前の世代の女の人は大方、男の人(演出家、作家)の生徒さんに見えてたが、この方たちのころになって、やっとかっこいい女の人が登場したと20代の私たちは思っていた。でも、とっても苦労してたよね。そこで冒頭の発言につながるわけだけど。

 る・ばるの身じまい公演は茨木のり子がテーマ、決して生徒ではなく、自分の頭で考えることを自分に課していた詩人だ。芝居は詩と回想と批判をまじえ、詩人の宇宙を指し示す。

 この茨木のり子を、若い日の水玉のスカーフとフォックス型の眼鏡で、幽霊のノリコ(松金よね子)、きいこ(岡本麗)、テンコ(田岡美也子)が交代で演じる。

 かっこいい谷川俊太郎(古屋隆太)の妻かっこいい岸田葉子(木野花)の衣装が、岸田衿子の服の完璧なシルエット。スケッチ姿も決まってる。櫂同人の写真では、岸田衿子茨木のり子が、それぞれ違う美しさで、そしてどちらも精いっぱい葉を伸ばしているように見え、あまりの違いに笑ってしまう。というようなところはないんだねこの芝居。美人で、家事も万端、手料理はおいしく、詩を書く。私から見ると「立派な女の人」「母親世代にいた力の余った女の人」で、作劇もそれを受け真面目。優等生。父親っ子で夫を愛していて、そうだよねっていう着地、最後のセリフいう役古屋隆太にする選択肢はなかったの?