渋谷TOHO 『プーと大人になった僕』

 「おやすみのおいのり」(クリストファー・ロビンがおいのりをする)という詩の朗読レコードを、いじめっ子たちは繰り返し繰り返し、クリストファー・ロビンに聴かせた。その「面白さがすりきれて」しまうと、彼らはレコードをクリストファー・ロビンに進呈し、クリストファー・ロビンはそれを野原にもっていって粉々にした。…というようなつらい話は一つも出てこない。パンフレットは売り切れ、映画館は満員である。

 だってくまのプーがかわいいんだもん。ディズニーのプーではあるけれど、ずいぶんシェパードの描いたクラシック・プーに寄せてある。赤い上着のプーはいつか大人になったクリストファー・ロビンユアン・マクレガー)の心と重なっていく。クリストファー・ロビンは会社で猛烈に働き、妻(ヘイリー・アトウェル)と一人娘(ブロンテ・カーマイケル)と、なかなか一緒に過ごせない。

 ピグレット(なぜコブタじゃない!?)とプーは、クリストファー・ロビンが大人になった後も、時々クリストファー・ロビンの木のうろの家を見に行く。ここが泣かせる。いいシーンだ。CGでよかったのは、森(これがまた百ちょ森でない)にかえってきたピグレットがシダのにおいをかぐところだ。プーには眉毛もないのに悲しいきもちを表わすのが上手だった。

 結局これ、誰に向けた映画なんだろうか、そこがわからない。「プーが好きなみんな」にむけてってことなのかもしれないけど、視点がクリストファー・ロビンと娘の二つに分裂している。なぜ旅行鞄屋さんがでてくるのかもわからない、クリストファー・ロビンは妻と二人で本屋さんを経営していたはず。ディズニーは、子供と子供の本を巡る複雑な話には、興味がないんだね。