池袋芸術劇場シアターイースト RooTS Series 『書を捨てよ町へ出よう』 寺山没後35年記念

 気が重い夜、座席に向かって息を吐き、くるっと振り返って舞台を見る、とたんに胸が広々として気持ちがあがる。上手奥のスクリーンに『書を捨てよ町へ出よう』と凝った文字で書いてあり、下手スクリーンには空色のウサギの模様(確かにあれはミナペルホネン)を施した青年と少女の絵(宇野亞喜良)がある。舞台中央に華奢なカメラとテーブルがあって、周りに銀白色のイントレが分解されて並ぶ。それは床の上に幾層も重なった銀色の紙――写真に見える。紙は切り取られ分解された眼球の奥で動き始める。

 寺山知らずの寺山嫌い、寺山のエッセイを読むと、なんだろ、もの凄い疎外感を感じるのだ。一列に組み立てられたイントレの二階を、軽やかに踊る足取りで行き来するれいこ(川崎ゆり子)の下で、男の子たちはサッカーの話をする。サッカーの「たま」の話を。あー、この疎外の大元は、私が女だからなんだな。だからこんなに苛立つんだ。

 母親のいない貧しい家族の18歳の「わたし」(佐藤緋美)、妹せつこ(青柳いづみ)、ばあさん(召田実子)、おやじ(中島広隆)のことがきれぎれに語られる。ウサギの死を知っているおやじの躰の重い感じ、振り返るばあさんの首のひねり具合が、マームとジプシーに新しい!と思った。あい変わらず力を持っているのは青柳いづみの声で、突然大型のプロペラが廻り出したような気すらする。せつは寺山だ、と途中で確信した。

 佐藤緋美、その場に「居よう」とする意志がすばらしい。初期の香川照之松田優作と共演しながら何とかしてとにかくただそこにいようとしていた香川照之を思い出したよ。しかし、科白が粘っている。もっと本を読んで。体の中の書を読む子の声を探して。