日本・スウェーデン外交関係樹立150周年 サーカス・シルクール 『LIMITS』

 スウェーデン語を習い始めのころ、ワークブックに、「スウェーデン人とはなんですか?」という、難しい問いがとつぜんでてきた。「国籍」って単語を急いで調べて答えたけど、「あれはなんですか」レベルの人にすごい質問をする。

 現代サーカス(アーティスティックな新しいサーカス)のグループの一つ、「サーカスシルクール」は、ストックホルムを拠点に活動している。今回の公演では「Limits―境界、限界」をモチーフに、難民について語られる。劇場に入ると台形に緩やかに広げられたスクリーンがあり、荒く波立つ厳しい海と、その上の空(雲がこちらへ早く流れる)が映っている。よく見るとそこには真横に橋が架かる。欧州同士はつながっているが、今見えている景色には橋がない。暗い緑の空、暗い青い海、心の中の空と海、ラフに描かれた鷗が上がったり下がったりする。下手でハーネスをつけた人が、舞台両端のタワーの一方へするすると上がり、スクリーンが風をはらみながら手前へ来て、いつの間にか頭を下にした玉虫色のイソギンチャクのように膨らみ、中空の真ん中の穴から海に投げ出された下半身が見える。しっかりした体幹。難民の物語とともに、サーカスの輪郭の鋭い際立った芸が披露される。銀色の金属の環を持って、あらゆる姿態を取りながら回転する女の人、音を出す筒をジャグリングして、音楽を奏でる男の人、シーソーの上で飛んで、複雑に身体を回転させながら着地する若い人、この人たち、オリンピックに興味なかったんだね。どれもとてもすごい。ただ、内容がショウとドラマで引き裂かれがち。もっとドラマ性を高めた方がいい。自分たちの歴史的寛容さに懐疑的になってるスウェーデン、ワークブックの答えは「スウェーデン人とはスウェーデンに住んでる人」というのだった、文法や語形は忘れても、そのことは決して忘れないと思う。