赤坂ACTシアター 『笑福亭鶴瓶落語会    (2018)』

 裂帛の気合。さっきまでのへなへなの入り太鼓がうそのよう。お囃子の三味線、笛、締太鼓が冴えて聴こえる。三味線の音に艶があり、清搔きが気持ちいい。それぞれが組み合って曲がつづれ織りのようにどっしりしている。手に取れそうな実在感。そしてまるで発表会に来たような緊張感だ。客席で、口三味線する芸者衆の気分になった。お江戸日本橋。締太鼓はリズムが正確、笛も激しく宙を舞う。

 (…でも歌舞伎じゃないからね。)とお腹の底でいい、これに負けないように落語するのたいへんだなと思うのだ、鶴瓶、どこへ行くつもり?

 すっと明かりが落ちて鶴瓶登場、紺とグレーと黄色の、いつもと比べるとちょっと垢抜けないセーター、ダメージジーンズ、あかるい橙色のデッキシューズ。

 前方にいくつか空席があり、ぽつぽつと入って来る客に、「どこやねん(席)。」「ここ空いてて気になるな。」と進行形で言いながら、以前観客がカップルで来て、メモを目の前で渡した可笑しい話をする。話と話、会場の空気をきれいに捌きながら、笑いを取る。その瞬発力をみると、この人は舞台の水、その潮目がよく読めるのだなあと思う。

 今年に入ってどのネタを多くやったかを写真が見せる。『徂徠豆腐』多い。稽古してんだな。と思ううち、「あなたにもらった帯留めの、」という、子供は決して歌ってはいけなかった出囃子に乗って鶴瓶が登場。後ろは屏風のように大きな障子様のものが二枚たち、五枚笹が中央に見える見台がある。舞台袖から見台までが遠い。鶴瓶はさっさと見台まで行く。昭和47年2月14日に松鶴に入門し、「いらち」でこわかった松鶴を基に、『かんしゃく』を語る。松鶴が大好きで、よく観察していた(松鶴も油断なく実によく鶴瓶を観察しているが)人にしかできない、体の芯に入った師匠の描写。扇風機がとてもいい。「んー」って、松鶴だか扇風機だかがいってるのがとてもかわいいの。怒り、叫び、うるさい松鶴宅から、小拍子ひとつで元弟子や弟子がぼそぼそいう静かな空間になった。

 ここで尺八の演奏家、辻本好美のマイケルジャクソンの曲(だと思う)。左の頬の所に遊星のような小さなマイクがついていて、尺八の音を拾う。吹く音ばかりでなく、息を引く音も聞こえ、それが物狂おしい、さびしさ、孤独に、切なさを添えて伝えてくる。

 二つ目の話は『死神』。落語って、わっと笑う話だけじゃないから面白い。女の妄執を語るすんごい怖い、とても優れた話になっている。ただ、「こんな動きもできるようになって」というところ、埋もれてるけどいいの?腕廻すとか、あんまりやると品が下がるし、難しい所。

 中入り後、また、(歌舞伎か…)というくらい三味線も笛も太鼓もすごい。(これは…本職…)と心の中でいう。大きな障子(今度は水色の格子)が増え、あずき色(?)の着物の鶴瓶荻生徂徠の説明をしてくれる。えーとこの『徂徠豆腐』、まだ完成してないな。途中で出てくる使いの大坂者の台詞が、かっちりしてない。「なんや解らんことを言う」だけでは、話がもたつく。徂徠の人格スケッチも今一つだ。鳴り物に負けないでね、とカーテンコールをみたら、締太鼓は笑福亭べ瓶、笛は笑福亭三喬。仰天した。あんたがた、落語の稽古どうしたー。