日生劇場 『ラブ・ネバー・ダイ』

 オペラの曲「ありがとう、愛する友よ」を聴くといつもアンドリュー・ロイド・ウェバーを思い出すし、その逆もある。きれいで、堂々としていて、覚えやすい。あんまり堂々としていて、あんまり覚えやすくて、そこがちょっと恥ずかしい。

 2019年『ラブ・ネバー・ダイ』は、そんな覚えやすさの気恥ずかしさとはかけ離れたミュージカルだった。

 まず演出にゆるみがない。まわり舞台を使い、「ミスターYのファンタズマ」に登場するファントム(石丸幹二)の手下たちの暗さと妖しさが本物で、にぶいグレーを掛けたパステルのような色とりどりの衣装の色調もいい。特に「フリークトリオ」のフレック(知念沙耶)の両手足を掴んだスケルチ(辰巳智秋)とガングル(重松直樹)が彼女をブランコのように何度も揺らし、くるっと回転させて肩に載せるのに驚いた。(この後フレックには、前後に開脚したまま美しく平然と二人の肩に載るシーンもある。)まわり舞台に立つ馬蹄型のプロセニアム・アーチが舞台の表になったり裏になったりする。セットは緊密に使いこなされ飽きない。

 そこで繰り広げられるのは「情」の物語である。演出のサイモン・フィリップスがこのプロダクションを特別だといったのは、「子別れ」とか「親子の情」とかが、私たちの心性に食い込んでいるからだと思う。淡々としてても、悲しさが出ちゃうのだ。

 キャストは一人一人に作られた見せ場に精いっぱい応える。一つの欠けもなく、「ラブ・ネバー・ダイ」というアラベスク模様を全力で作り上げていく。少年(熊谷俊輝)の声、その存在が、そこに光を当てる。

 えー、ラウル(田代万里生)可哀そうだし、不実な女はこうなっちゃうのか。っていう以外は、いい芝居でした。