渋谷CLUB QUATTRO  『エディ・リーダー』

 チケットの整理番号400番くらい、だというのに会場の人はまだ10番を呼んでいる。早すぎだよ、でもなんか早めに来ちゃうのだ。10番、15番、20番、あまりの番号の遠さに「ははは」と笑う。笑っているうちに順番がすんなり来て、ホールへ入る。今日は椅子がない、段差が円形に舞台を囲むところに一列あるくらい。30代40代、小さい子供連れ、50代、60代とそれぞれいる。どんどん人が増えてきた。ステージの真ん中にひょろんとマイクが一本立っている。それ以外はもう見えない。

 そこにエディ・リーダーとバンドが登場する。きらきらだ!きらきらのエディ・リーダー!耳から下がるラインストーン(?)のイヤリング、なんでそんなに光るのかと思うくらい光る黒地にラメのシャツ、赤く光る髪、「妹に写真送るね、」と言いながらスマホで会場と自分をさっと撮り、「信じないと思う、私が東京にいるなんて」、というと「はいはい、では機内モードにします」とライヴを始める。バンドメンバーの紹介を早口にして、アコーディオン(アラン・ケリー)、ダブルベース(ケビン・マクガイア)、ギター(ジョン・ダグラス)はわかったけど、ブー・ヘワーディーンの小さいウクレレのようなあの楽器は何だろか。マンドリン?バイオリンみたいなf字孔がついている。一曲目はComedy Waltz、ブー・ヘワーディーンの楽器がカットするように短く激しく鳴り、アコーディオンが音の通路を作る。エディ・リーダーの声も、短く激しい。彼女はステージの空気の中から声を取り出しているみたいに見える。すこししゃがれていて低い声かと思ったら、高い声、ファルセットも自在に出していて、「自分の声のベテラン」て感じにさっさっさっと喉を操る。でも前半より後半の方が調子よかったかな。

 2曲目が、もう、有名曲Perfect。みんなわっと喜んだけど、戸惑いもある。えっもうあの盛り上がる曲歌っちゃうの?エディ・リーダーはセットリストを決めずに曲を選ぶらしく、合間に厳しい顔になって曲名をメンバーに伝えているようだった。今日の白眉はね、ライブ後半で歌ったStarlightだった。声が伸び、コーラスもすてきで、星明りの降り注ぐ異世界へ、彼女に連れ出してもらったと思った。2曲目にPerfectを歌うのは、ライブが毎日違い、いつも新しいことに挑戦しているってことかもしれない。

 Dragonfliesが始まり、3拍子の中をアコーディオンがソロを取る。赤いボディに左手の触るあたりに、丸い釦が山ほどついている。今日、アコーディオンは大活躍だった。のどかな曲。落ち着く。儚いような、さびしいような歌詞だけど、悲しいばかりじゃないみたい。エディ・リーダーが首に巻いているのは、紺のウサギの手ぬぐいじゃないか。ということにも気づく。

 次は新作アルバム『キャバリア』からCavalier。自由の歌だと説明する。エディ・リーダーの英語よく分かる。かんたんな単語にイメージ喚起力があるもの。世の中すべて「わかってほしい」「わかりたい」の往還だなー。とおもってしまう。その心が世界を回している。

 Open your heart/’Cause I love you(略)’Cause we’re all lonely

すてきな歌だね。

 アルバム『キャヴァリア』と、これまでの曲を交代でやる。

 ロバート・バーンズのChalie Is My Darling は、リフレインを一緒に歌わせてくれる。それから、知らない曲の、とても長いフレーズを必死で覚えて歌った。認知症のテストみたいだったけれど、たのしかったなー。

 私の家ではエルヴィス・プレスリーが王様だったのよと音楽好き一家だったらしいエディ・リーダーはいい、母ジーンがうたいたいような歌いたくないような煙草を持ったままの恰好で、ムーン・リヴァーをいい感じに(やだ!はずかしい!)と言いながら歌うところを演じてくれる。昔の女の人って、自分も含めてそんな感じだよねと思う。その上にエディ・リーダーがある。

 すべて歌い終わってしばらく、聴衆が辛抱強く、熱く拍手をしていたら、エディは一人で出て来てくれた。アカペラでAllelujahを歌い、糸を切る身振りをして舞台袖に去る。暗くなる舞台。小さい、赤い赤いばらが1輪、目の裏に見える気がする。