ワタリウム美術館 『Walk this way ジョン・ルーリー展』

 昔、内田光子が、「私たち(演奏家?ミュージシャン?)は、空間に音を放る人」と言っていた。音っていうのは、みんな、空間を漂ったり、飛んだり、空に吸われていったりするものなのかもしれない。

 ジョン・ルーリーの描く人物はたいてい、下半身がない。空に浮かぶ風船のように、漂っている。鳥は意志ある音(出そうと思って出す音)のように宙にとどまる。ラウンジ・リザーズのMVでは、丘を駆け上った人々が、激しくジャンプする。

 これ、音かな?飛ぶ、浮かぶ、消える?

 ジョン・ルーリーの目を通してみる世界は、とても流動的で、浮島のようで、彼はそこで迷子みたいにさまよっている。I am filled with rage という詩が、フライヤーには載せてあるが、色彩が美しすぎて、怒りはあんまり感じ取れなかったよ。

 展覧会の一番最初にある「お尻みたいな花を咲かせた木。また満開」(Buttock tree is in full bloom again, 2018)は、木と人が同じくらいの大きさで描かれ、そして同じ描法(点描?)が使われている。美しい浅い緑の樹がざわめいていて、黒に近い暗い深緑、滲む白で形作られた人も、このざわめきを聴いているようだ。画面に小さな白い四角がいくつもあるが、これ、何か光のような、エーテルのようなものかな。人物の頭は黒っぽい緑が強いので、きっと怒りが溶けてゆくところを捉えているのでは。謎の「お尻みたいな木」、そしてそれを描くジョン・ルーリーというのは、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のウィリーに少し似ていて、懐かしく、面白い。The Legendary Marvin Pontiac(1999)というアルバムだって、ずいぶん聴いたものだ。美しい色、この色の隣には、絶対この色が来なくちゃダメだという感覚、そしてファニーで独自の世界、ジョン・ルーリー、めっちゃ心きれいだなと思うのだった。




7月7日まで、

                             東京都渋谷区神宮前3-7-6 

                            ワタリウム美術館