シアターコクーン・オンレパートリー2019 DISCOVER WORLD THEATRE vol.6 『ハムレット』

 劇場への階段を上がりながら、漂うかすかな音を聴くために足を止める。鋭い細い風の音。デリケートに選ばれた音だ。岡田将生ハムレットはじめ、皆台詞が、地面から水を吸い上げる植物のように、体の奥底、下の方から聞こえ、嘘がなく、そこがとても素晴らしい。ハムレットはそれではまだ駄目で、殺人のシーン、母を責めるシーンなどで、声音にあの風の音のような金属の混じった厳しさが必要だと思う。でも、演出家がどういう指示を出して、どのような稽古をして皆この境地にたどり着いたのか、とても興味ある。まさか「ここは猫みたいにね」って言っただけとは思われないもん。

 スチール風の柵に囲まれて、幾何学的な骨組みの建物が見える。上手の、人の背丈ほどの所に揺らめく明かりがひとつあり、その上にコウノトリの風見がある。囚われた建物。ああ、『ハムレット』って囚われた心、囚われた家族、囚われた国の物語だよねと思うのだった。亡霊の現れる望楼のあたりが、話が進むにつれ廃墟のように見えてきて、あの原発事故に囚われ、虜囚のように生きる日本の私たちの姿も、下手の壁の影絵のように鮮やかに顕れてくる。クルミの殻の外は既に崩壊しているのだ。

 サイモン・ゴドウィンすげぇぞ!とあんまり鳴物入りなので、すんごい期待してみたせいか、すんなりと普通に観れてしまったのがなんだか惜しい。音楽がうすく、それが一幕の終りの演出と相俟って、二時間ドラマのCM前みたいでがっかりした。あとオフィーリアに向ける演出の愛がうすくない?黒木華が何でもすぐできちゃうからかなあ。狂乱シーンを手探りでやっている感じがする。髪の毛のとき泣かないの?

 村上虹郎がピシッとしていて驚きました。竪山隼太、「好きな台詞」がばれちゃってるよ。さりげなくね。


追記   あのテレビ風の演出は、悲劇が「消費」されていることを表している。いまいち、わかりづらかった。