世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009 『キネマと恋人』 (2019)

 カチカチとフィルムの回る音がして映画が映し出され、ヒロインのハルコ(緒川たまき)が登場し、刻々と変わる心情を全身で生きる。妹ミチル(ともさかりえ)が謝りに来たと知ると色つきの足袋をはいた足は踊り、夫電二郎(三上市朗)の浮気に棒立ちのカラダが部屋とともに揺れる。 

 ハルコが一番悲しい時に、『月の輪半次郎捕物帳シリーズ』の間坂寅蔵(妻夫木聡)は映画の中から出て来てくれる。ここがもう、演劇や映画、エンターテイメントになんとか助けてもらってほそぼそと生きてきた人間の心をつかむ。つぼだよぅー。

 この再演で、電二郎や梟島キネマ支配人小松さん(尾方宣久)の表現が深くなり、役柄たちが思ってもみないところでかわいげや味が出た。嵐山進(橋本淳)は、より嫌な奴がシャープになり、ミチルが「もう(こんな恋人は)見つからんだり!」と堰を切ったように泣き崩れると、その絶望に共感して、そんなことも言ってた過去の自分に少し笑いつつ頷いてみせるような気持になった。

 一番変わったのは高木高助(妻夫木聡二役)の最後のシーンで、ちょっと暗い気持ちになった後、ふわっと夢見るようだった前回とは違い、今回の高助はずいぶん自分を責めて落ち込むのである。ここは、いい。彫が深くなった。すこしありきたりだけどね。今日、妻夫木聡は力が入っていた。高助の1幕2場は、力が入りすぎていて、耳が聴こえていない。体の中の圧力が強すぎるのだ。息してなかったかもだな。気を付けてほしい。ダンサーと揃えて体を動かす緒川たまき、差がありすぎる。

 かなしい、こわばった顔が、うつむき加減から段々にスクリーンを振り仰ぎ、静かに花が咲くように笑みがこぼれる。妹と笑いあう。最高のシーン、最高の演技だ。