池袋芸術劇場 上海京劇院日本公演 『西遊記~旅のはじまり 2019』

 聴こえてくるものすべてが節。チャイーンチャイーンと鳴る鐃鈸(?)、カカカカと聴こえる小さな平置きの太鼓(たぶん)、銅鑼、どれも声だ。(ついでにいうと、どうして1500円のパンフレットに、楽器の紹介がないのか?挨拶文で優に6ページって驚きだし、こないだの『理査三世』が無料の充実したものだったのに、どうしてこれはと思わずにいられない)そして役者の裏声がその中を割って一際明瞭に響く。どうしても「サウンド」が聴けない自分に、ぴったりはまるチューンの粋みたいな京劇の「声」である。三蔵法師(李春)は裏声の台詞と地声の台詞とを、めまぐるしく取り替えながら「うたう」。どの音も、節回しが気持ちいい。ただ、演奏と声が、どのくらいあってればいいのかがわからなかった。

 第一場は大仏の前に僧がシンメトリーに舞台端を廻って位置に就く。ここ、ちょっと左右の僧が対称じゃなかったけど、最終的にはびしっとしていた。二場、三蔵についてきた二人の弟子がすぐ片足を地面からあげるのが、「怖い」のを表わしていて可笑しい。そして恐ろしく勢いのいい虎。この後は3連続、4連続で宙返りしたり、側転したりするあの「オリンピックに興味のなかった人たち」が大挙して現れる。ひらりひらりと舞台を行きかう様が、とても美しく、迫力がある。めっちゃ体の切れる山賊を、適当にあしらう悟空(厳慶谷)、虎の顛末と山賊の最後が可哀そうで、三蔵法師は悟空を叱って怒らせてしまう。この、花果山に帰る、斜め上に向かう悟空だけどさー。一回はいいよ、一回はご愛嬌、でも二回は要らない。悟空は頭に輪を嵌められ、しぶしぶお師匠様に従う。そして、龍と戦う。激しい音を立てる旗の群が、波を表わす。鱗の眷属が、次々に悟空の前に現れ、頭に触角を生やした龍(洪小鵬)も強い。これ、はやく「通」になって、いいところで拍手したいなあ、と思ったことでした。