ヒューマントラストシネマ有楽町 『COLD WAR  あの歌、2つの心』

 なんでもかんでもすーらすらと口に出し、なんでもかんでも説明し、要するにすごく口の立つ自分が、この映画のことは身内に説明できない。話し始めたら泣きそうでかっこ悪い。映画の中で起きたことが、うまくことばにならない。ラジオでこの映画のことを「説明しにくい」といっていたが、ほんとそう。言えないことってあるんだなー。と、もう結構な年だっていうのに、新たな知見を得るのだった。

 言おうとすると口が震えてしまうようなこと、混乱の余り、喉につかえて出てこないこと、「どうしても言えないこと」が心の底に堆積し、透きとおった川の底の砂利のようにうねって、ある時本人の行動を決定づける。

 亡命する。亡命しない。あるいは、

 恋人を追いかける。恋人を追いかけない。

 ポーランドへ帰る。ポーランドに帰らない。

 若いズーラ(ヨアンナ・クーリグ)の目の中に、白い明りが灯っていて、それは雪景色を映すようにも炎のようにも思われるのだった。「逃げる」ことにズーラは敏感で、彼女の心の川床に何かそれを妨げるものがある、と、映画はちっとも説明しないで観客に伝える。黒味つなぎの静かなモノクロ映画で、ズーラとヴィクトル(トマシュ・コット)のいない場面がほぼなく、本人たちの会った記憶で話が進む。歌も素晴らしい。でもさー。そんなにも運命の女、「大切な女」だってことが、最初のポーランドシーンで伝わってこないんだよね。あとズーラの夫(でてこない)ってのがよく分からなかった。どこにいても居心地の悪い二人は、求めるけれども決して得られない幻のような愛を、どこまでもどこまでも追いかけてゆくのだった。