ユーロスペース 『新聞記者』

 杉原拓海(松坂桃李)。外務省から出向して「内閣情報調査室」で働く彼の役名を見て、すぐにあの「スギハラ」、本国の指示に従わずユダヤ人にビザを発行し続けた杉原千畝を連想する。組織に異を立てて人命を守る人、一体そんな人、そんな役人まだ日本にいるのかよー。と聞かれているみたい。

 なんとなく過ぎ去った気でいる「加計学園問題」「官邸に近いジャーナリストのレイプ事件」の上に、投げやりに貼られたバンソーコーを剥がし、傷口をむき出しにする。「加計学園問題」とは、経済特区獣医学部を作ることを内閣府が打ち出して、「閣議決定」し、動き出したプロジェクトに「総理の意向」というバイアスがかかり、圧力によって進捗したといわれるもの。覚えてる?

 この映画は現実によく似た医療系大学を巡る、疑惑と死と正義、組織と個人について扱う。素敵な男(松坂桃李)と女(吉岡エリカ=シム・ウンギョン)がこんな至近距離で見つめあい、演技しているのに恋愛ものじゃないのが凄い。誰もが厳しい、抑制された芝居をしている。詩森ろばの脚本はハンコのように入り組んでいるが、一番劇的なところで終局を迎える。(後半、どこで終わってもいいくらいだった。)でも、「いちばん劇的なところ」が光ってない。緊張が均一。

 有能な公務員が「時の政権の私兵のように使われて」いるのがとても怖い。それから、エリカの部屋を真上から撮っているとこが怖かった。忍び込むカメラ、あれ必要?

 松坂桃李はただの「ハンサム」ではなく「一人の苦しむ男」として映り、シム・ウンギョンも素晴らしい表情をする。もっと日本に居たら?抑揚練習してさー。日本独自のほかの役でも見たいもん。西田尚美の泣きはらした顔が、リアルだった。