世田谷パブリックシアター 『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』

 主題の短い、展開の多い、不安なヴァイオリンのソロが長く流れ、アナウンスの後、グラナダTVの「シャーロック・ホームズ」のテーマが聴こえる。あ、あれかー。考証に厳しく、女たちの装身具がリアルで、紅茶ポットまですてきな奴。どんなにチャンネル変えても見たいものがない時、あの番組をやってると、つい見ちゃう奴。

 シャーロック・ホームズの若い不安定な日々を描くという今作『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』には、首を傾げるところが多い。シャーロッキアンにしかわからなかったのか。三谷幸喜、どうしたい?今まで通りの愉快な感じでいきたいの?それとも愛憎を強く打ち出したいの?

 マイクロフト・ホームズ(横田栄司)とシャーロック(柿澤勇人)の兄弟の相克はまだこの函に収まるけど、後半の、裏切られた男の憎悪には、函の底が融けだしそうだよ。

 柿澤勇人はシャーロックを滑舌よく、センス良く演じる。中盤、椅子にしゃがむ事しかできなくなる所、病んだ若者の身体の生理をよくとらえていた。しかし、柿澤のせいでなく、シャーロックに魅力がない。もう少し脚本に遊びがあってもいい。ヴァイオレット(広瀬アリス)はその点いちばん楽しめる役なのに、この人蓮っ葉にやりながら全然誰にも心を開いていない。第一声、あれでいいの?私はマジの方がいいと思うよ。レストレイド(迫田孝也)、登場で空気変えられていない。ここが一番大問題だと思う。ワトソン夫人(八木亜希子)、美しく、声のコントロールも素晴らしく、「ソツがない」。ちゃんと女優になればいいじゃん。このキャスティングは、なんとなく、歌を歌わせる(得意と不得意)ためだったのかなとも思う。

 論理の天才ってコンピューターみたいに一瞬でたくさん考えるんだね。女の勘に一目置くはずだなあって思いました。