下北沢 駅前劇場 ふくふくや第20回公演 『こどものおばさん』

 頭でっかちに考えると、「ああ、セックスワーカーね。」とクールなくせに、よく知りもしない人がフーゾクで働こうとすると、全力で止める。とても矛盾した、価値観の揺れてる自分。私を含めた世間の揺れを映して、この芝居の「トルコ嬢」の述懐も海の上の艀のように定まらず両価的だ。主人公のひとり十五歳の春子(山野海)は将来の目標を、弁護士にするかトルコ嬢にするか迷っている。世間的に認められた弁護士か、尊敬する母(中村まゆみ)の職業の風俗か。風俗に働く人の矜持と、それとは裏腹な蔑まれる哀しみ。ここはいい。母とそのヒモ(浜谷康幸)の夜逃げを受けて春子が決断するシーン、「大人になるのがすごいこわい」。なぜか私は一葉を思い出し、あの「美登利」にものすごーく申し訳なくなった。春子犠牲なの?勿論、「セックスワーカー」として受け取るならば、ここはとっても前向きな感じであるはずなんだけど。竹田新はこの矛盾をどう考えているのだろうか。両価的なものをうまく動かして話を推進しているのだが、両者の対比、オーバーラップがうまくいってない。

 前作『ウソのホント』から引き続き登場する人々に、春子の幼馴染日向子(熊谷真実)が絡み、新しい店での人間模様と春子たちが15歳だった過去がかわるがわる現れる。会話は一瞬の滞りもなく弾けるように進み、気の利いた台詞ばっかりなので怒鳴るのはやめようよもったいないと心から思うのだった。山野は今回きちっと芝居を抑えてきたが、もう一つクールさが欲しい。市原悦子がもってたような、樹木希林がもっていたような、役柄との距離。熊谷真実は好演しているが、いざという時、「目をパチクリパチクリ」してきたことがばれてて、大切なシーンで深みに欠ける。パチクリ禁止。