新国立劇場中劇場 『渦が森団地の眠れない子たち』

 藤原竜也、声嗄れてるやん。と、心の温度が零下にまで下がる。声がちゃんと出てる、その声に表現力がある、芝居ってそこからじゃないの。例え野田秀樹だったとしても、声嗄らしてたら評価しない。今日は二階の最後列だったのでなおさらだ。声がしゃがれているから、登場して田口兄妹(圭一郎=鈴木亮平、月子=青山美郷)に声をかけた時の台詞が、もう一度出て来ても効かない。違うように言うのか、全く同じように言うのか、それは役者のセンスによるけど、いまはとにかく、ぼんやりしている。

 ぐるぐると激しい渦(それは最初に出てくる水洗トイレで端的に暗示され、不気味で息苦しいセットの真ん中にはきっちり描かれる)に巻かれ、沈んで流されそうになっている人々、大人も子供も流されないようにするのに全精力を使っていて、他人を助ける力が、ほぼない。唯一、下へ下へと引く力に抗するため、団地の自治長安部久典(木場勝己)は花壇の世話を子供たちにさせるが、それがまた更なる渦(暴力)を生む。

 失意の月子に母(奥貫薫)は次から次に苦しいことの来る人生について語るのだが、ここ、とっても胸に来るけど、母自身も下へ引っぱられている台詞じゃないかなあ。お別れ会が長く、前後の暗いシーンが引き立たない。鉄志(藤原竜也)の母(奥貫二役)の暴虐ぶりが今一つ。(描写が長い。演出・脚本の問題かも。)鈴木亮平の「弱さの表現」、もっとあってもいい。トイレについて語る冒頭のシーンで、皆に語りながら「渦」の中に流している物が何か、彼だけは知っている。伊東沙保、「ファン」の変わった女の子、よかった。いろいろあるけど、観終わったら感動していた。再演希望。野田秀樹だって、30年前は声を嗄らしていたのさー。