下北沢特設テント 唐組・第64回公演『ビニールの城』

 『ビニールの城』、これ、「女って何か」「他者って何か」っていう話かなあ。

 昔々、「わからないこと」「不条理なこと」を皆、女のせいにしていた時代がありました(『イヴの総て』をご覧ください)。男たちがビニールの包装越しに出遭うビニ本の女、モモ(藤井由紀)は、アパートの薄い壁の穴から覗き見た腹話術師朝顔稲荷卓央)を愛してしまう。朝顔はそのことを知らず、はなればなれになった分身の人形夕顔を探し、尋ね尋ねてモモと行き会うのだ。朝顔は確かにビニールに包まれたビニ本の女に向かって愛しているとは言ったものの、生身の女の出現にひどく戸惑う。(ビニ本の女は幻想である、しかし、生身の女に男が貼りつけてきたのは、やっぱり幻想だったのではないか。)モモは自分と朝顔を隔てるビニールを憎んで撃つ、「生身」の「生臭さ」をそこから届け、朝顔と愛し合うために。しかし、男はそれには応えない。

 じつはわたくし、最後、舞台の後ろが開く重要なシーンを見ておりません。見切れました。

 「見られない」という芝居だと思って、カーテンコールのモモの服を観た。モモは手の届かない所へ行ってしまうのだと思う。絶対の他者として、唐が幾重にも幻想を巻きつける決して触れられないビニールの城の王女として。

 引田(岡田悟一)の連れ河合(全原徳和)の台詞よかった。ジャッキで膨らました空気人形のように唐の言葉が生きている。

 唐十郎の「芝居小屋=テント」の思想は素晴らしいけれど、年を取ってて少し体の利かない自分って、どうしてもそこから零れ落ちちゃうよね。さようなら。さようならでいいですか。唐組はそこんとこ、これからどうするつもりだろう。