2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「風立ちぬ」

ついこのあいだまで刀を差して歩く人のいた国で、心理小説を書き、飛行機を設計する。維新からたかだか70年である。すごくもあり、無理でもある。日本は無理している国だった。そして、いつでも無理をしてきたのである。 その無理を支えるのは、堀越二郎(…

シアターコクーン「盲導犬――澁澤龍彦『犬狼都市』より――」

縦に5段、優に30列は並ぶ舞台の幅いっぱいの銀色のコインロッカー、照明が小さな白い三角形をいくつも作りながら舞台を照らす。盲人影破里夫(古田新太)が歌を歌うと、その明かりがだんだんに薄れ、破里夫の上にだけ落ちる。それがしぼりにしぼられて消…

ギャラリーエークワッド「トーヴェ・ヤンソン夏の家――ムーミン物語とクルーヴ島の暮らし」

1940年代半ばのトーヴェ・ヤンソン。つまり30歳くらい。抽象的な裸婦を描いた油絵の画架を左手に、古ぼけただぶだぶの上着を着て立っている。胸に大きな裂け目、その下に特大のポケットがついていて、これも破れ目がある。袖口から、ストライプのジャ…

シアタートラム「誤解」「正義の人びと」 

「一人の男が金をもうけようと、チェコのある村を出立し、二十五年ののち、金持になって、妻と一人の子供を引き連れ、戻ってきた。その母親は妹とともに、故郷の村でホテルを営んでいた。」(新潮文庫:窪田啓作訳) カミュの『異邦人』で、主人公ムルソーが…

パルコ劇場「非常の人何ぞ非常に」

燃えない布を発明。うなぎを宣伝。日本で最初に洋画を描いた。日本の貿易不均衡を憂える。いろいろありすぎてどんな人だか知れないのである。平賀源内(1728~1778)。エレキテルを修理復元した人でもある。 これにたいして、杉田玄白は、オランダの…

世田谷パブリックシアター「ドレッサー」

メビウスの帯。紙テープを一回ひねって、もう一方の端に糊付けするとできる輪っかの、テープの真ん中を鉛筆でたどっていくと、あら不思議、表と裏がありません。 「ドレッサー」は、そういう芝居に見える。 腹に響く爆弾の炸裂音の中、今日も舞台が幕を開け…

新国立劇場「象」

暴力はどこからやってくるのか。一つは津波や地震のように自然から、もうひとつは争いや戦争のように、人間が相手を見てしまうこと=視線から。通行人1(山西惇)が通行人2(金成均)にステッキを振り下ろすのは、じっと見ていたからというのがはじまりだ…