2015-01-01から1年間の記事一覧
通夜の晩、スーツを着たやせがたの男(大沢健)が、尋ねてくる。男の身体は、びっしょりと水で濡れている。家に上がった男は、時々、ちろり、ちろりと舌をのぞかせ、寿司の折詰に顔を突っ込んで寿司の身の部分だけ食べる。折詰のひもを片手にさげ、ひょろっ…
終幕、ネハムキン(松永玲子)やスタンリー(みのすけ)が最後のセリフを言って、舞台が暗くなると、この物語がどこをどう通ってこの結末にたどり着いたのかわからなくなり、一瞬混乱する。たしか最初は、クリスマスツリーを楽しげに飾り、ドアの上の金モー…
目に見えないもんが大事だったんじゃなかったのか! 「王子」(声:ライリー・オズボーン)と「バラ」(マリオン・コティヤール)に加えられた容赦ない描写に仰天。『星の王子さま』の一番終わりのページには、砂漠を表わす2本の線と、星がひとつ描かれてい…
ほそながい舞台に置かれたベッド、人間が一人(=パック キャサリン・ハンター)そっと横たわる。頭をつけ、眠りに落ちた途端、四隅のシーツがするするとどこまでも広がり、天幕のような広さとなり、舞台を覆い、眠る人を包んで上へ上へと上がっていく。風を…
思い出そうとしている。学校ハモニカの感触と、音色だ。上下2段になっていて、吹き口が青い。両側から3本指で、つまむように持つ。ただ吸ったり吐いたりするだけだと、濁った音がするんだよね。「げーこー」って感じ。意味なくげこげこやりながらふざけて…
開演15分前に会場に入ると、もう前座のけん玉が高座に上がって一席やっている。客より早い。すごいなあ、青年団みたいだ。今日は「五代目圓楽一門会」。 五代目圓楽という人は、「いいかい、落語家というのは世の中に要らない商売なんだ。そこのところを世間…
鶴瓶、本気だ。この落語会が二時間を超えると聞いて、すぐにそう思った。だけど、鶴瓶というひとは、大体常に本気みたいなのだ。テレビで、「これはテレビですから」ととりつくろおうとする素人の出演者に向かって、それこそ怒髪天を衝く勢いで鶴瓶が激怒し…
『ヴェローナの二紳士』、初めてだ。シェークスピアの芝居には、「いい者」も「悪者」も、多種多様の幅、深さで登場するけれど、この芝居では、その原型のようなキャラクターが現れる。 まだ、善悪共に分かちがたい、未分化で未熟な誰か。長所も短所も取り混…
右と左の靴下を、いっぺんに編んでるみたいだ。二重に重なった靴下が、じゃーん!編終わりで二つになって現れる。『ラ・マンチャの男』とは、セルバンテス(松本幸四郎)とドンキホーテ(松本幸四郎、二役)を同時にさしている。激しくギターをかき鳴らす男…
向かって舞台下手に三上さん、主旋律を演奏します。上手側に松村さん、伴奏、というか、サウンドを作ります。こんなことさえ、コンサートに行かなかったら知らない情報だったよ。ゴンチチのラジオは、十年以上聴いているのにね。 舞台中央に大きな青い幕が下…
舞台中央に、大きすぎず、ちいさすぎない、木が一本立っている。なんとなく木は青ざめて白っぽく見え、ささやかに枝を広げている。と、思うんだけど実際はちょっと違った。木に幹はなく、中間部がない。しかし、あるべき位置にぴしりと梢が設えられている。…
男をみがくといいながら生きる人たちがたくさん登場する近松の物語。何とかなった人たちはわき役に、情動に負けた人たちは主人公になる。 ていうか、心中って、出処進退をきれいに、あざやかにしたいのに、そうできなかった人たちの一発逆転だったんだなあ。…
話さなくても、いいんだー。 と、思わず感心してスクリーンに声かけしてしまうくらい、わずかな言葉ですべてを語る映像美なのだった。 木陰にたたずむ二頭のラバ、その隣にいて遠く行列をうかがう二人の女。一人は白装の道士嘉信(シュー・ファンイー)、も…
舞台に出てきた4人の人間が密に立ち、軽く身体に腕をかけあう。家族。時間と空間を長く共有する人たち。愛情。平和。喜び。そして、その裏側の嫉妬、争い、哀しみ。 ユージン・オニールって人は、アメリカでとても有名な俳優の息子で、金持ちの坊ちゃんだっ…
ベッドに横たわる女が、天窓(スカイライト)からぼんやり飛んでゆく鳥を見ている。 横たわっているのは裏切られた奥さんで、一度も登場しない。けど、その光景はなぜかはっきり見える。 不倫した実業家トム(ビル・ナイ)は、奥さんが亡くなった一年後、不…
「金を儲ける」。 だあれも否定しない。金はいくらあっても邪魔にならない、なんていう。「もっと」という。誰もが単純に儲けたいと思っていた昭和後期。時代の申し子のような男、鯨井紋次(小出恵介)は盗品を売って、不動産業、芸能やプロレスの興行と事業…
はー。おもしろかった。私の鴻上尚史史上、最も面白い芝居だった。 現代、現在をどう見るか。鴻上は、「たった今」の、まるで熔けた鉄のような時間を切り取る。現在を語るとき、避けて通れないテーマ、「日本は戦争をする国になるのか」。芝居に登場する日本…
馬琴、微妙。勧善懲悪のいかつい物語を書き、金の出入りにうるさく、金棒引きみたいに同業者の悪口を本に書く人。印象悪い。 明かりが入ると江戸時代の家がそこにある。上手に薬研のある製薬の部屋、真ん中に馬琴の書斎(ちょっと本が少ない)、廊下、下手に…
あかのなかからくろ くろのなかからあか あかのなかからくろ くろの… と、永遠に続く連環。絵肌はひそかに息を吸い込んでいるように見える。吸い込むということは、やがては吐く。息を吐いて、ロスコの絵は、何を語るのか。 というようなことを、きっと絵の…
「全体」「個人」とそれぞれ書いた札を作り、「個人」の札を選んだ人のことは、もうほっといて。と、ちょっとキレ気味に考えていた子供時代がありました。それを思い出すくらい、主人公ストックマン(瀬川亮)がこども。 温泉湯治場をもつノルウェーの田舎町…
スタンリー(ベン・フォスター)とステラ(ヴァネッサ・カービー)の住む二間のアパートに、ステラの姉ブランチ(ジリアン・アンダーソン)がやってくる。労働者階級のスタンリーと、地主の出身のブランチは気が合わない。暑い夏、息の詰まるような狭いアパ…
この世って地獄。ヒエロニムス・ボッシュの世界観て、そんなものらしい。赤い、血のような幕が開くと、そこには一枚のボッシュの絵が、生きたまま留めつけられている。刃に貫かれている巨大な耳、醜いブーツの足が突き出た卵、それはやっぱり矢で刺し貫かれ…
千葉佐倉のDIC川村美術館。その所蔵品の白眉、マーク・ロスコのシーグラム壁画が7点飾られているロスコルームにいる。展示室の灯りは最小限に抑えられ、目が次第に慣れるまで、絵の詳細が分からない。 はっきりいって、ものすごーく気軽な夏休み気分で佐倉ま…
じーっとみる。女王(ヘレン・ミレン)が歴代首相をみつづける芝居。週に一回、続けられる女王と首相の慣例の謁見(オーディエンス)。女王に政策の決定権はない。決められた何もかもを黙ってみているしかない。スエズ侵攻に胸を痛め、ブリタニア号の退役話…
ストラヴィンスキーの『兵士の物語』のCDを買ったら、語りの人(ジャン・コクトーだった)がたくさん喋ってて、音楽と半々くらいに聴こえる。ニ回聴くのがやっと。フランス語わからないもん。 今日観た『兵士の物語』は、ダンサーがセリフを喋り、踊る、スピ…
下手に立っている障子は、上半分がちぎられたようにギザギザで、穴が開き、何だか砦の塔のように見える。上手にも破れた障子が二枚、横向きに置いてあり、おんぼろのピアノを隠している。ホリゾントに一筆描きの街の景色、手前に空を飛ぶ障子、かすかに電車…
イプセンの生れた村に、堰の水車があって、その軋む音がイプセンには女の嘆く声に聞こえた。 いま、廃墟のような建物の中にいて、外から聞こえるヘリコプターの旋回音は、何に似ているんだろ。と思う間もなく、なにかが爆発し、廃墟の中の人々が身をすくめる…
「マコちゃんQ大にいったんだって」いや、もとい。 「マコちゃんQ大げなー。」それはもちろん頭がよくて(田舎でQ大にどのくらい威力があるか、都会の人には到底はかり知れないと思う)すごいねっていう意味でもあるが、どっちかっていうと音楽のヒーローの…
川島雄三は、死の予感から逃げてゆく佐平次を、幕末の品川宿から、1957年の品川まで駆け通しに駆けさせようともくろんでいた。それは、過去と現在を結び合わせ、そのどちらもひとしく過去としてフィルムに定着するという、大胆不敵なラストシーンになるはず…
中央に、窓枠みたいなものが吊るされている。その前に花の鉢が置いてあって、枠の向こうにも、対称に同じ花の鉢。上手にドアと本だな、そこには壁がある。壁が切れたあたりにベンチ、クッションが二つ。暗がりを透かし見ると、奥にもベンチがあって、同じク…