2016-01-01から1年間の記事一覧

アップリンク 『淵に立つ』

カッチカッチカッチカッチ 映画館を出ても、メトロノームが追いかけてくる。刻まれた音が自分の歩きとシンクロして、シブヤの外れの舗装道路を、崖に変える。波打ち際に変える。赤い鉄橋に変える。 こわい! こわい映画だったのである、最初の朝ごはんのシー…

ムジカーザ 『第七回 上原落語会 第三部』

あの、代々木上原の駅なかのモールを通り抜けて出る上原銀座の道を、西原の方へ下って、どんつきの坂を上がる。住んでたことあるけど、一度も上がったことのない坂だと断言できる坂の登り口に、「ムジカーザ」はある。はしゃぐ子供が何人も通るクリスマスイ…

シアターコクーン 『シブヤから遠く離れて』

古い洋館。中央の棟に三角の屋根がつき、それがエメラルド・グリーンに見え、氷の宮殿――すきとおっているもの――を考える。上手の外階段を上ると2階の張り出しバルコニーに通じ、円いバルコニーをぐるっと緑の葉を出した鉢植えが囲んでいる。舞台手前に、美…

さいたまスーパーアリーナ 『一万人のゴールド・シアター2016』 

ながいながい食卓(2列に、8つ)。食卓の上には、りんご、のような赤い丸いものが見える。中央に並んだ食卓を挟んで、片側の隅には簡素な白いベッドが5台、5台、4台と置かれ、反対側には黄色、赤、緑、青、ピンクの大きなパネル状のものが床に敷かれている。…

シス・カンパニー公演 『エノケソ一代記』

「本物のニセモノになりたい」 なんだろ、その情熱。たまにネットで、女友達のネックレス、バッグ、服、車、家、夫選びまで真似をして、友人にこわい思いをさせている女の人を見かけるけど、あれだろか。遠浅の海で、平和に遊んでいたのに、突然足を取られ、…

月影番外地その5 『どどめ雪』

縁の下の濃い闇、押入れの濃い闇、透かし見ればそこには、打ち棄てられたピンクの赤ちゃんだるまや、「朝鮮戦争緊急配備」と書かれた古い新聞紙が隠れている。 鶴子(峯村リエ)、幸子(高田聖子)、雪子(内田慈)、妙子(藤田記子)の4姉妹は、古びた日本…

福岡サンパレス 『中村勘九郎中村七之助錦秋特別公演2016』

舞台に楽屋の拵え。あ、これからこの楽屋に役者さんが素で入ってくるのだ。とおもってうれしくてわらっちゃう。いいよね、こういう歌舞伎の解説。中村勘九郎と七之助が司会だ。楽屋のちょうど中央に扇風機が置かれ、上手側に赤の四角い枠、下手に黒の枠が見…

博多座 『十一月花形歌舞伎 石川五右衛門』

緞帳が上がると、三色の定式幕(じょうしきまく)が、ふんわりと風を吸って、風を吐く。生き物のような幕の動きをながめているうちに、いつのまにかそれが静まり、ぴったりと平らになる。するするというには少し重い音がして、はじまるよ!幕が開いた! 真ん…

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007 『キネマと恋人』

『カイロの紫のバラ』。現実逃避の果ての、ビタースウィートな映画。それをケラが舞台化、トラムでかける。ゼップでボブ・ディランを見るような、ブルーノートでノラ・ジョーンズを見るような贅沢だ。 スクリーン。真ん中に一つ、上手と下手にも小さなスクリ…

Zepp ブルーシアター六本木 『あずみ  戦国編 』

「そば焼き作ってきて。」と女中に頼んでのん気にしてたら、お城の台所の方が火事。思えばそれが落城の日だったのです。という大坂城落城ドキュメントを読んだばかり。今日の『あずみ』はそんな話じゃない、もっと鋭く厳しい。 戦国時代、孤児となった子供た…

てがみ座第13回公演 『燦々』

葛飾応為。画師。北斎の娘。本名お栄だが、父親から「アゴ」って呼ばれてた。小さな人形を作るのが上手で、これがよく売れた。画師に嫁いだが、夫の画のまずさを笑っちゃって、離縁。代表作は『吉原格子先之図』、『夜桜美人図』など、光と影を巧みに描き分…

世田谷パブリックシアター 『遠野物語・奇ッ怪其ノ参』

地勢。たとえば、「明日から刀はなしだってさ」と海辺の町から平野を順繰りに、人々が腹立ちながら後ろの人を振り返り、奥へ奥へと申し送りする。と、不意に険しい山が現れて、もう次に伝える人が誰もいない。憤懣は山に当たって跳ね返り、高まり、とうとう…

ビルボード東京 ヤエル・ナイム

billboardと、ステージ正面に大きく吊り看板が出ていて、見るともなく眺めていると、活字の丸く囲われたところにみな色がついている。最初のbは紫、次のbの丸は赤、oはオレンジ、aは青、dはピンク。 舞台下手にピアノ、ピアノの前にギターが立てかけてあり、…

劇団チョコレートケーキ 第27回公演 『治天ノ君』

万世橋にあった交通博物館で、「お召列車」というのを見たことがある。木のベンチが据えられた殺風景な三等車両が、「こんなもんでいいや」という投げたような質実さだったのも悲しかったが、お召列車の総絹張りや装飾の漆塗りや金細工は、「かならずこんな…

恵比寿ガーデンホール 『Live Magic 2016』

あたり!マスターカードの福引で当たりが出て、ガーデンホールの二階からライヴが観られることになった。マッサージも10分サービスだし、ジュースも無料だ。やったー。くじ運の強さに大喜びしていると、次にあたった女の人が説明を一通り聞いた後、「ほかに…

新国立劇場小劇場 『フリック』

映画館の思い出。満員の映画館で、通路側が一席、ぽかんとあいている。急いで近寄って、「空いてますか?」と尋ねたら、スーツにメガネを光らせた小太りの青年が、「ここは来るんです!」と思いのほか激しい口調で答えた。ふーん。そうなの。私は通路に座っ…

シアターオーブ 『キンキーブーツ KINKY BOOTS US NATIONAL TOUR IN JAPAN』

声が見える。ドラァグクイーンのローラ(J・ハリソン・ジー)と、靴工場の社長チャーリー(アダム・カプラン)が、父の期待した通りの息子でなかった自分を歌う曲だ。(Not My Father’s Son)まるで柳絮(綿毛をつけた柳の小さい種)がたったひとつ、白く細…

日経ホール 岩波ホール発 白石加代子『百物語FINAL』

白石加代子の『百物語』を観た夜。家に帰ると、しーんとしている。ある日友人のところを訪ねたら、家がしーんとしていて、何の気配もしない。その筈だ、だって友人は死んでいたんだから。という話をうっすら思い出す。自分の脱いだ靴が、静まっているのに物…

イメージフォーラム 『ジャニス リトル・ガール・ブルー』

“サマー……” 嗄れた声、書家が一気に引いた勁い線のように、墨にはたっぷり余裕があるのに、美しい掠れが出る。字の輪郭ははっきりしているが、「かすれ」は激しく、「あばれている」。音が伸びる。輪郭が消えそう。もしかしたら、もう墨はないのかもしれない…

黒柳徹子主演海外コメディ・シリーズ第30弾記念公演 『レティスとラベッジ』

巻き肩で悩んでる。胸を張りながら頭を反らすといいよ、朝起きたら窓枠に手をひっかけて胸筋を伸ばすといいよ、背骨の周りに肩を巻きつけるんだよ。いろんな人がいろんなことを言う、だけどさ、これ、もしかしたら加齢のせいじゃないのか。 「わー」。声を出…

花組芝居 全七段通し上演『桐一葉』

疑い。「彼が浮気」「彼が宇宙人」「彼が間者(かんじゃ)」、どれだって、疑い出したらきりがない。思い込んだら、「そうでない理由」なんか、見つけられないもん。いつでも恋人の上にうすーい浮気の、宇宙人の、間者の影がかかっている。それが豊臣家の大…

東京芸術劇場 RooTS Vol.04 『あの大鴉、さえも』

「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(1915-23)。 書いてるだけで美術通な気分になってくるこのデュシャンの作品の通称は、≪大ガラス≫という。写真でちょっと見ただけでも、何がなんだかわからない。なんか、大きなガラス板。そして、器械…

キャラメルボックス 2016グリーティングシアターVol.3 『嵐になるまで待って』

「わかりました」 右手で胸を静かになでおろす。本当にわかった感じがする。わかった内容が胸に収まって、一瞬きらっとするみたいだ。西川浩幸の手話には説得力があった。 西川浩幸は2011年左前頭葉皮質梗塞で倒れ、「連続して喋ろうとすると違う音が出る」…

遊園地再生事業団+こまばアゴラ劇場 『子どもたちは未来のように笑う』

天球模型のように下がる電球、斜めにつられた蛍光灯、モニターが二面。中央に丸い大きな球の照明、その下に机が二つ寄せておいてある。それを遠くから囲む8脚の椅子、ゆりかごが一つ。これらすべてが8角形の「ケージ」に入れられている。「内側」という名の…

人見記念講堂 エルヴィス・コステロ『DETOUR』

エルヴィス・コステロが選んだ500枚のアルバムのリストを、スウェーデン人の人にもらい、大切にしていた。買ったCDには薄く鉛筆で丸印つけたりして。まだ持ってるよ。 今日はコステロの『DETOUR』 コンサート。DETOURとは、迂回路、回り道のことだって。30分…

葛河思潮社 第五回公演 『浮標』

舞台は一面の白い砂だ。 砂にめりこむ足。踏みしめても足元が崩れる。その足跡。(その疲労。)それははっきりと、シンプルに目に示される、苦しみの重力だ。 久我五郎(田中哲司)の妻美緒(原田夏希)は、貧しい人たちの託児所を設立するために精根使い果…

シス・カンパニー公演 日本文学シアターvol.3【長谷川伸】 『遊侠 沓掛時次郎』

むずかしいと思っていた。16歳の高校生洋子(萩原みのり)が仁義を切る冒頭シーンである。なんか時代錯誤(アナクロ)だし、リアリティがないじゃん。 ところが、おひかえなすって につづくセリフを聴いていると、「今16歳の少女」の今しか出せない気分が流…

東京芸術劇場 シアターイースト 『宮本武蔵(完全版)』

世の中の大人と言われる人たちの中身って、たいていは14歳ではないかと疑っている。表側に「常識」とか「社交辞令」がくっついて、本音の「えーやだ。」とか「きらい。」を飾っているのだ。 ここに一篇の不思議な時代劇、登場人物は皆拙者と名乗り、相手を貴…

シアターコクーン 芸術監督蜷川幸雄・追悼公演『ビニールの城』

薄い透明の膜のこちらに朝顔(森田剛)が、あちらにモモ(宮沢りえ)がいる。それはヴェールを隔ててルクレチアが胸に擬した短剣のように限りなく近く、果てしなく遠い。 棚。ぎっしり並んだ人形の棚だ。こちらを見ている人形、仰向けの人形、そのだらりと垂…

ブルーノート東京 パンチ・ブラザーズ

Punch Brothers というのは、マーク・トウェインの短編から採った名前だっていうから、読んでみました。 “Punch,Brothers,Punch” (1876)新聞に載っていた、もともとは鉄道の広告の、「(切符に)穴をあけて、皆さん、穴をあけて」という調子のいい歌が、耳…