2017-01-01から1年間の記事一覧
三時間半の大作。四谷怪談のお岩を巡る男たちの嫉妬や、四谷怪談が一種の家庭内殺人であることから、現代の事件、俗に北九州連続殺人事件と呼ばれる家族の崩壊というか、壊滅事件を詳細に語り、二つを交叉させようとする。 舞台の頭上にはニワトリなどの飼育…
「俺をほめたじゃないか!」 財産を失い失意の底にいるタイモン(吉田鋼太郎)が、軍を率いるアルシバイアディーズ(柿澤勇人)の胸ぐらをとって叫ぶ。金があり、友人たちに恐ろしく気前よく振る舞っていたころの自分に対する言葉を、タイモンは責めるのだ。…
大竹しのぶがもうすでにこの芝居で紀伊國屋演劇賞を受賞している。えええ?見物しようと靴ひも結んで顔をあげたら、ゴールしている人が見えたような気持ちー。でもそれも仕方ないのだった。圧倒的な集中力、圧倒的な演技で、大竹しのぶは芝居を引っ張ってい…
ストップモーションが美しい。天鵞絨の赤い緞帳が開くと、そこは荒涼とした河川敷のような景色、上手と下手を堤防や橋梁によくある巨大なコンクリートの壁が遮っている(グエムルを思い出した)。奥からスローモーションで群衆が出てくるが、そのスローは日…
流山で近藤勇が、とか得々と言い出す人間は、永遠にこのコミュニティには入れない。地元、地元の人間、地元のスナック、地元の魚屋、地元の友達、地元の不倫、地元の連続殺人。 兄国男(皆川猿時)の鮮魚店で働く高橋満(賀来賢人)の体には、「地元の」と書…
「最後吐いてました、原稿書くのに」(パンフレット、長田育恵) そうだろうなー。ただでさえ演劇ってその場で消えてしまうもので、それに消し去りたいとか貧しいとか弾圧とかの条件が加わると、どれほど時代と資料に穴が開くか、想像に難くない。たいへんだ…
THE CHIFTAINS 55TH ANNIVERSARY。その題字に続いて、チーフタンズ結成の1962年から、今日までの歴史が、スライドの写真で紹介される。古い写真の中で、笑っているパディ・モローニ、アメリカ初公演、ロイヤルアルバートホール完売(1975)、映画『バリー・…
ぱっとあらわれて、さっと演じ、すっと帰る。鶴瓶って、じつはそこんとこをとても大切にしているような気がする。「粋な」(関西発音でお願いします)感じ、って言語化する私は野暮の極みですけどね。 劇場では、景気のよいお囃子が演奏されている。途中で、…
クロイドン。映画に登場するこの街は、ものすごく思春期っぽい。なにもかも古くて灰色か茶色、とげとげしくて寒々としていて居場所がない感じ。ライブハウス(半地下!)の外の舗道を流れる水まで冷たく拒否的に見える。 エン(アレックス・シャープ)はこん…
日本人を踊らせた!ミヤザキハヤオくらいの年配の、ミヤザキハヤオくらい一言ありそうなおじさんやおばさんを!と、つないだ両手を上げたり下げたりしながら、ブルターニュのケルト音楽の悲しいような切ないような、美しい節に乗って通路や舞台を進んでいく…
開演前、キャスト表の、 廣川三憲:男7(警察署長) 藤田秀世:男8(会社員) というその多めの数をみて、それがもうすでに、別役世界を拡張しているようで、ちょっとわくわくする。下手に、窓を照らす大きな月、青い月光。 魚の開きのように、同じ建物が…
暗い色の布地がかけられた安楽椅子に、85歳のマージョリー(浅丘ルリ子)が、いかにも具合悪そうに横になると、自然と私の頭には、エッグチェアにきれいに足をそろえる浅丘ルリ子が蘇り、いやでも「記憶のニュアンス」について考えるのだった。人工知能?そ…
くしだかずよし、攻めてる。そこにすごく吃驚する。尊敬する。この攻めの姿勢を評価するかどうかで、作品の評判が、変わっちゃうんだろうなー。 ヒロインのリューバ(ラネーフスカヤ夫人)を親しみやすい小林聡美が演じる。原作に、「気さくで、さばさばして…
高速道路の車の音と、波の音とが混ざって聴こえるような。けれどやっぱり波の音だろうか。はるか遠くから打ち寄せる長く続く波音。悪い夢のように椅子がいくつも、思い思いの格好で倒れている。アスファルトの上にアスファルトが乗り上げたように見える三分…
「テレビを体に埋め込まれた部屋」、配線色のゴールドとシルバーとコッパーがだんだらに、揚幕みたいにすべてを染め分ける。 開演10分、イヤホンガイドを外す。なぜなら、目の前の芝居とイヤホンの中、二重に芝居が進行し、ニュアンスが複雑になりすぎて追い…
軍服姿の男(キャシオー=ロベルト・デ・ホーフ)が背景の襞の寄った幕を次々に剥がすと、幕は風をはらんで躍り上がり、沈み込み、舞台の人物に飛び掛かる制御できない巨大な生き物のように見える。中から現れるのは鉄骨の矩形の部屋、細い黒い骨組みを除い…
いろいろびっくりである。まずキャストの配役表がない。誰が誰だかわからない。1000円を超える立派なパンフレットがついているのに。カジノを日本に作るあれやこれ、その候補地の一つ京都の片田舎、梶高校の同窓会のシーンが、冒頭なのにかなりのりが悪い。…
「ウィー」 ジャン(本多力)、ブルーノ(諏訪雅)、アントニオ(石田剛太)が大家(中川晴樹)に返事をするとき、声を合わせてこういうのだが、これがフランス語に聞こえず、すごく可笑しい。 幕開きと同時に伽藍の鐘の音がし、大家はダリ髭を生やした茶髪…
食べ物のブースにお菓子少なめ。というショックをよそに、ホール舞台上に、早やバラカンさんと稲葉智美さんが上がり、ライブマジックのTシャツの説明などしている。トートバッグには「やるのはマジックやり方は音楽」と英語で書いてあり、Tシャツのレコー…
おじいさんのセーターがカシミヤ、おじさんのベストが新品、そんな有楽町朝日ホールである。年配の人が多く、皆楽しみにして来ていることがわかる。 群青色の高座に、うぐいす色の座布団、下手から軽々と春風亭朝太郎が登場した。さっと噺に入る、開口一番て…
あら。プレビューだったんだね。 舞台闇。目の奥の方へ、奥の方へ、後退してくるような、抉ってくるような闇。滴るような濃い闇だ。ゆっくり客席が暗くなり、激しいドラムのリズムに揺れる人々が現れる。全員が糊のきいた白いシャツと、黒いパンツを身に着け…
中央に引っ張られ、皺を見せ、緊張を見せる左右の黒い幕。誰にも明かさない胸の奥。原作のいろいろのせいで、信賞必罰のはなさか爺さんみたいな話かと思っていたよ。ところがこれは、高度で張りつめた駆け引きと、洗練と退廃の極みの登場人物による、怖くて…
『動物園物語』をモチーフに、二人の男が殺したり殺されたりの関係になるという芝居を、二十歳縺れの年頃に観た。作は鈴木勝秀だったのかな。殺されたはずの男が、立ち上がってにこやかにしているのが印象的で、そこに私は、演劇の可能性とか感じたりしたの…
その土地の芸妓さんの束ねや調整事務をする見番、その浅草見番の二階の広座敷で、今日は萬橘さんの定期独演会。 畳には一面に白い座布団が敷かれ、畳に座るのがつらい人たちには、10席ほどの椅子席がある。プロセニアムアーチ(?)の向こうが板張りで、高座…
気持ち悪いものが大嫌い、なのはなぜだろうと考えてみる。飛び散る血だのはじける脂肪だのがだめ。それは血も脂肪も全部「わたしの」であるせいだ。いつも被害を受け、いつも痛い。「痛い目にあわされる側」に必ずいる。アクション映画でスカッとしたことも…
1ミリのあいだに3本から4本の髪の毛を彫ったという江戸の浮世絵彫師、俳優のセリフ術にはそれに近いものがあると思う。細い線を出すだけでなく、強い線や柔らかい線、下絵通りにそれぞれを削り出していかなければならない。たいへんだよね。 さいたまゴール…
子どもの鉛筆の持ち方が変でも、一家の実権をもつおばあさんと同じであるため、直してやることができない。というようなことは結構よくある。この映画に出てくるとある島の田山家も、そのような家の一つ。母親が無意識に、娘を自分より幸せにすまいと図り、…
白い段状の舞台で「GOOD MORNING」と書かれたTシャツを着た俳優たちが物販をしている。彼らは芝居の準備のためにほどなく去る。一人残された作・演出の澤田育子が、上演中の諸注意を説明する。この芝居(ダシモノ)ではまず、飲食自由、飴の包み紙の音自由…
ピーンと聴こえるピアノのような耳鳴りのような音、現れた三隅(役所広司)は、白っぽい眼をしている。凶いことをする人の眼って、あんなふうに白っぽく見えると思う。ところが、この30年前に強殺の前科を持つ男は、わけがわからない。強盗目的ですねと言わ…
お能の鼓の拍子は、続けて強くたたかないのがものすごく印象的だ。同じ間合いで、つぎもやっぱり大きないい音が来るだろうと、観客の身体が予測して待ち受けているのに、それをすかすように、外すように、ごく小さな、デリケートな拍子が鳴る。受け手のアン…