2019-01-01から1年間の記事一覧

穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース 『荒れ野』

団地の狭い一室。壁のペナント!世界地図!カラーボックス!サイドボード!どういうこと?時が止まっているよ。まんなかに電気炬燵が一つ、ベランダに出るガラス引き戸は汚れている。引き戸の手前には、ピンチハンガーのピンチに留められたままの洗濯物の下着…

二兎社公演43 『私たちは何も知らない』

雑誌編集って遠い。でも、ツイッターは個人発行の「zine」に似ているような気がする。そう考えると、「青鞜を編集」というのもちょっと身近に感じられるのだった。 青鞜の盟主平塚らいてう(朝倉あき)、美術の才能のある尾竹紅吉(夏子)、事務を統括する保…

岩波ホール 『リンドグレーン』

大きな窓の前に据えられた仕事机、白いカーテンの向こうに緑がうっすら見える。後姿の老年女性――作家アストリッド・リンドグレーンの手元が映り、「アストリッド 誕生日おめでとう」と書かれた子供のファンレターの上を、アストリッドが指先で二回軽くたたく…

めぐろパーシモンホール 大ホール 『THE PIANO ERA 2019』

古式ゆかしいジャズ・ヴォーカルをたくさん聴き、それからおもむろにカイル・シェパードの曲を聴くと、 (なにがあった) と、吃驚するのである。今まで自明であったはずの「曲」、「メロディという物」が剥がされ、時計の中の精密な機構が見えちゃってる感…

KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』

人差し指の指紋の渦を、一人の男が歩いてゆく。強い向かい風に帽子を押さえ、前方は感知不能、両脇は背の高い目隠しに視界を遮られている。いやなこと、困ったことが次々に起き(女の人が絡んでいることも多い)、結局彼にはいつも「現在」しかない。にもか…

小倉城天守閣再建60周年 『平成中村座 小倉城公演』

黒-白-柿の中村座の定式幕とおなじ配色の小さいのれんが、劇場前の売店の上に一列に並び、風に吹かれてお客を手招きする。甘酒、コーヒー、お弁当、シャンパン、シャンパン売り場の人は蝶ネクタイをしている。後ろを振り返るとそこが平成中村座だ。櫓には紫…

たましんRISURUホール(立川市市民会館) 大ホール 『柳家小三治 秋の会』

ほそいほそい三日月が、ホールのガラス壁越しに、ちょうどころあいの場所に出ている。その斜め上に星がひとつ光り、月とつよく引っ張り合っているように見え、夾雑物を許さず均衡をたもって成立している。絵のようですね。 今日の座布団は薄め、ふかふかの座…

世田谷パブリックシアター 『終わりのない』

個にして全、全にして個。オデュッセウスの「都合二十年」に及ぶ長い帰還の旅。一人の少年が、凍りついた一歩をどう踏み出すかの物語。 この三つがうまく重ねあわされSF的に進行する。と、だれもかれもそう思っている芝居だが、「そこじゃねー。」と小さい声…

serial number 03  『コンドーム0,01』

脚本は手堅い。役者もきちんと演じる。結果おもしろい。 なのに、文字が話し言葉になるところで、めっちゃまずいことが起きていると感じる。例えば、「え。でもさ。」という言葉は、はっきり「芝居の台詞」として発せられる。言ってみれば空間に穴がない。風…

恵比寿ガーデンホール 『Live Magic』 2019

曇り空のエビミツ、ついふらふらと、ラベンダー色のマニキュアとか買うのである。今年のライブマジックは、おっとりした人工衛星の心持で、つーと見学した。 まずバラカンさんのオープニングのあいさつ、13:00の8分前。8分できっちり、テキーラベースのスペ…

下北沢特設テント 唐組・第64回公演『ビニールの城』

『ビニールの城』、これ、「女って何か」「他者って何か」っていう話かなあ。 昔々、「わからないこと」「不条理なこと」を皆、女のせいにしていた時代がありました(『イヴの総て』をご覧ください)。男たちがビニールの包装越しに出遭うビニ本の女、モモ(…

武蔵野市民文化会館小ホール 『Dreamers' Circus』

流木を4本、交差させて組んだ束(つか)に、電球が仕込まれてかがり火のようになっている大きい照明が四つ、舞台上にランダムに置かれ、舞台前面にはまつぼっくりが点々と落ちていて、一つは小さなかわいいケージに入っているし、上手(向かって右側)には小…

彩の国さいたま芸術劇場 『蜷の綿 ―Nina's Cotton―』

ニーナ(たち)の語る台詞。 「その世界の中には、あなたとわたししかいない」 きびしく、かっこいい。一人の人間の心の中の分割された一つ一つをニーナ(たち)と男(=壮年、内田健司)で象徴し、ニナガワの心、心象、出来事をそれぞれ描き、結び合わせる…

東急シアターオーブ 『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』

遠藤周作のキリストの評伝は、確かキリストの死で終わっていて、そこから先は「信仰」の問題である、と言ってたような。『ジーザス・クライスト=スーパースター』は「信仰」ではなく、一人の男の苦悩の生涯を扱っているから、同じ形を取っているのだろう。 …

渋谷CLUB QUATTRO  『ホットハウスフラワーズ』

hothouse flowers 1.plural of hothouse flower えっ温室育ちのお姫様たちって意味ー。と、改めて驚いたところでクアトロ着。 くだけた格好の、或いはすこしゴージャス風味の服で、アイルランド人の人々が会場のそこここに散見される。今日のライヴはアイ…

東京芸術劇場 プレイハウス NODA・MAP 第23回公演 『Q:A Night At The Kabuki』

市松人形のように切りそろえたおかっぱ頭をゆらゆらさせ、ひとつ、ふたつ広瀬すずが台詞を言うと、唇がまるで手塚治虫の描く王女様のそれのように光っている気がする。分厚い髪の間から覗くあごは白く、首筋は可憐に細い。まるで「乙女心」に服を着せたみた…

新国立劇場中劇場 『渦が森団地の眠れない子たち』

藤原竜也、声嗄れてるやん。と、心の温度が零下にまで下がる。声がちゃんと出てる、その声に表現力がある、芝居ってそこからじゃないの。例え野田秀樹だったとしても、声嗄らしてたら評価しない。今日は二階の最後列だったのでなおさらだ。声がしゃがれてい…

下北沢 駅前劇場 ふくふくや第20回公演 『こどものおばさん』

頭でっかちに考えると、「ああ、セックスワーカーね。」とクールなくせに、よく知りもしない人がフーゾクで働こうとすると、全力で止める。とても矛盾した、価値観の揺れてる自分。私を含めた世間の揺れを映して、この芝居の「トルコ嬢」の述懐も海の上の艀…

シアタークリエ 『ラブズ・レイバーズ・ロスト ~恋の骨折り損~』

心のチューニングがめっちゃ難しいミュージカルであった。シェークスピアの、何を思ったか王様と三人の学友、という多めの人数を踏襲し、そのうち二人は髪型が似て、その上途中でパジャマに着替える。混乱してしまう(見分けられない)展開だ。なぜか開演前…

明治座 『めんたいぴりり  未来永劫編』

い…逸材?博多華丸を見て仰天する。何よりもその体躯が、子供のころからちゃんとしたもの食べてましたって感じの、ノーブルな気配すらするガタイなのだ。よく分かっている衣装(松竹衣装)の人が、アイロンのかかったシャツと、サスペンダーの附いたズボンを…

赤坂ACTシアター A New Musical 『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』

板垣恭一がんばった。日本の演劇が「長らく目を背けてきた」貧困と性差別をテーマに脚本を書き、アメリカに曲の三分の一を発注し演出した。題材はアメリカの19世紀の紡績工場、差別されてきた女たちを主人公とする「現在進行形の」(問題は大して変わってな…

サンパール荒川大ホール 『桃月庵白酒・柳家三三 二人会』

台風の風がびゅうびゅう、近所の蕎麦屋さんは落語会に行く人たちで満員。サンパール荒川、緞帳は古いが座席もトイレも新しくてきれいだ。 幕が上がると、ほいほいほいと軽やかに桃月庵あられが現れてふくふくに盛り上がった黄色い座布団にすっと座る。 「い…

CINE QUINTO シネクイント 『人間失格 太宰治と3人の女たち』

マリアナ海溝。世界で最も深い海溝、深さ一万メートル越え。 太宰と海溝と何の関係があるかと聞かれれば、正直ないわけだけど、太宰を扱うならばマリアナ海溝チャレンジャー海淵くらいの深さに、「傑作への渇望」がないとだめじゃない?この映画で唯一それを…

新宿武蔵野館 『ある船頭の話』

ふーん。オダギリジョー、一撃で日本映画の「なあなあの背骨」折ったね。そのことでオダギリジョーが何としてもこの映画を撮りたかったのが何故か、わかる。撮影クリストファー・ドイル、衣装ワダエミ、音楽ティグラン・ハマシアン。村上虹郎、川島鈴遥の若…

紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA 井上ひさしメモリアル10こまつ座第129回公演 『日の浦姫物語』

1978年、『日の浦姫物語』。杉村春子が「わが子よぉ」というのを見て、「泣いた」と友達にウソを言いました。その当時、「泣けない」「無感動」ってことが自分の中で大きなテーマだったのだ。世界は私と関係なかった。こどもだもん。「近親相姦」という仕掛…

浅草見番 四季の萬会

浅草見番。畳敷きの変形の広間に、座布団が隙間なく並べられ、ひとつひとつに少し秋っぽい半そでの服の観客が座る。皆ぱたぱたとパンフレットや扇子で顔を扇いでいて、後ろから見たその光景は、明治っから変わらないよねー。と言ってしまいそうなくらいだ。…

世田谷パブリックシアター 『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』

主題の短い、展開の多い、不安なヴァイオリンのソロが長く流れ、アナウンスの後、グラナダTVの「シャーロック・ホームズ」のテーマが聴こえる。あ、あれかー。考証に厳しく、女たちの装身具がリアルで、紅茶ポットまですてきな奴。どんなにチャンネル変えて…

日本橋TOHO 『引っ越し大名』

マンガっぽい演技、について考える。一瞬で表情が全然変わる、間が重視され大仰になるあれ。ポップでシュールな芝居に適ってる。時代劇って、戦前のものからもう「現代劇」なので、「時代劇に適わない」ってことは言わない。ただこの『引っ越し大名』には、…

東京芸術劇場 シアターイースト DULL-COLORED POP 福島三部作一挙上演 第一部『1961年:夜に昇る太陽』第二部『1986年:メビウスの輪』第三部『2011年:語られたがる言葉たち』 

「いささかの不安があれば、いくら会社の方針とは言え、肉親を失った私は会社には従わない。何も東電しか勤め先のないわけではないから東電を辞めてもいい」 常磐線の中で、福島双葉町の大学生、穂積家の長男孝(内田倭史)と知り合った謎の男(佐伯=阿岐之…

京都芸術センター 地点『三人姉妹』京都公演

「きゃー」、長い長い、新しく張り替えられた瀟洒なローズウッド色の廊下を歩くと、とおーくの床が、思わぬ具合に軋む。ここは「アンティーク」という言葉がぴったりな元小学校だ。ここで今日、地点の芝居を観るのだ。 絶望したように見える白樺が、舞台天井…