2021-01-01から1年間の記事一覧

新宿武蔵野館 『夜空に星のあるように』

この世で一番弱い人って、自分が弱いってわからない人だ。この映画の主人公ジョイ(キャロル・ホワイト)は、まさにその暗黒の極点のようなところに立っている。ハイティーンで泥棒のトム(ジョン・ビンドン)の子供を産み、夫は服役してその間パブのバーメ…

シアター1010 KERA CROSS VER.4『スラップスティックス』

1939年、ビリー・ハーロック(小西遼生)は映画配給会社のデニー(元木聖也)を説得して、忘れられたコメディ俳優ロスコー・アーバックル(金田哲)主演の無声映画を上映してもらおうとする。デニーに19年前の映画界を語るうち、世界は重層化し、過去が映画…

彩の国さいたま芸術劇場大ホール さいたまゴールド・シアター最終公演『水の駅』

イキテイル水。すべてが、暗く、幾何学的で、しんと静まり返っているのに、舞台の真ん中にある蛇口から流れ出る水だけが、細く光りながら身をよじって落ち、華奢な銀の鎖のようだ。立てる音は意外に低く、川や春の雪解け水をすぐ思い出させる。 あのー、最初…

Bunkamuraシアターコクーン COCOON PRODUCTION 2021『泥人魚』

ビゼー『真珠とり』の「耳に残るは君の歌声」がゆるやかに流れ、滑り板に腹ばいになった麦わら帽子の少女(やすみ=宮沢りえ)と少年(浦上螢一=磯村勇斗)が笑いながら干潟を行く冒頭から、頭上にブリキ板を担ぎ上げた、まだらボケの老詩人(風間杜夫)が…

三鷹市芸術文化センター 星のホール『星の王子さまとの出逢い ~音楽と絵と言葉のコンサート~』

「ごうかーく!」ステージを見るなり胸の中でにっこりする。紗幕にさらりといい感じのペン描きで、いびつな星たち、輪っかのついた星ひとつ、地球っぽい大きめの星などがシンプルに現れ、ピアノの高い音がきらんひかひかと小さく鳴る。紗幕の向こうに布で作…

シアタークリエ 『ガラスの動物園』

「映画にいく」。トム(岡田将生)は、母アマンダ(麻実れい)と姉ローラ(倉科カナ)に何度もそう告げて、牢獄のようなアパートを脱け出す。だが、(おや?)と思うのは、「映画」にそれほど重みがつけられていないからだ。或る時は軽く、ある時は吐き捨て…

紀伊國屋ホール 扉座創立40周年記念公演『ホテルカリフォルニア ―私戯曲 県立厚木高校物語―』

犬飼淳治、儲かっている!儲けている!中学までは「勉強ができる」ことが自分のキャラで、進学校に進んだ途端、「特徴のないふつうの高校生」になってしまった子の、無口でぎこちない苦痛の表現、佇まいが素晴らしい。すこし周りの空気が蒼ざめて温度が低い…

吉祥寺アップリンク 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

ワン・トゥ・スリー、暗闇・うすくらがり・ひかり、暗闇・うすくらがり・ひかりと、登場人物が現実には見えないもの、自分の影とダンスを踊る。 ローズ(キルスティン・ダンスト)は元夫と、フィル(ベネディクト・カンバーバッチ)は伝説的カウボーイブロン…

下北沢 小劇場B1 good morning N°5 『異常以上ゴミ未満、又は名もなき君へ』

「舞台」と「客席」のあいだに、ぴんと張られたビニールの幕がある。うつくしい水槽。黒いTシャツの下のスカートが、色とりどりにきれいで、熱帯魚みたいで、もっと見たいけど、役者とすぐ目が合っちゃうので、非常に見づらい。しかし、この芝居の始まる前が…

映画 『リスペクト』

ジェニファー・ハドソンといえば、『ドリームガールズ』(2006)の、不満が多くてわがままな、ドリームズ(シュープリームスをモデルにしたと考えられる三人組の歌手)の一員だ。「わがまま」で「総すかん」の目に遭うにもかかわらず、公開後十数年たってぼ…

本多劇場 ナイロン100°C 47th SESSION 『イモンドの勝負』

いろんなものがシームレスに、なだらかに続いているなー。『ちょっと、まってください』の時は、その先にあるのは不条理な、別役的世界だったのだが、今作では、対立する概念が、毛糸編みのミトン手袋みたいに、手首のところで一つになっている。すげーよ、…

東京芸術劇場シアターイースト NODA・MAP番外公演 『THE BEE』

殺人犯の小古呂(おごろ=川平慈英)って、実在?てか、居るの?と終演後、頭の中が?でいっぱいになる。そして、全然別の空間の、全然関係ない小さい子供の震え声の問いを思い出す。 ――鬼って生きてる? 子供のにいさんは、やってることの手も休めず、生き…

新国立劇場小劇場 『イロアセル』

『檻』に入っているのはだれか、っていう芝居のような気もするし、そうでないような気もする。寓話のような気もするし、そうでないような気もする。『イロアセル』は不思議な芝居だった。なにしろ、面白かったような気がする一方で、つまらなかったような気…

PARCO劇場 パルコ・プロデュース2021 『ザ・ドクター』

おもしろいじゃないの!ずーっと目の前の舞台に釘づけだった。医師ルース・ウルフ(大竹しのぶ)の患者が死に瀕している。患者は14歳で、中絶に失敗した。両親は海外で、飛行機でこちらに向かっている。両親の意を受けたといって、神父(益岡徹)が最後の典…

世田谷パブリックシアター 〈りゅーとぴあ×杉原邦生〉KUNIO 10『更地』

ポストトーク出演の白井晃は、11月14日開幕のKAAT『アルトゥロ・ウイの興隆』を控えており、11月28日には、来年1月の『マーキュリー・ファー』のチケットが一般発売される。紹介せんと駄目やん、杉原邦生。 劇場に入ると、奥に向かって高くなっている白い二…

Bunkamuraシアターコクーン 『パ・ラパパンパン』

初めに断わっとくが、私は11月に、それも初旬に、クリスマスソングを流す店が嫌い。クリスマスソングかければ、客入りが上向いて、店が輝くのか。店のアンケートに「まだクリスマスじゃない」と書くよ。木枯らしも吹かずうららかな陽気の今日、『パ・ラパパ…

Bunkamuraル・シネマ 『ジャズ・ロフト』

写真には音がない。あたりめーだと思うとこだけど、36歳で既に写真界(?)の大立者となっていたユージン・スミスにとって、そのことは痛切に意識されていた筈。大甘(おおあま)の写真だと、写真評論家が口元をへの字にする有名な『楽園への歩み』は、3,4…

練馬文化センター 小ホール 『イッセー尾形の妄ソー劇場 その4』

下手のすっごく前。衣装ラックがよくみえる。黒にピンストライプの背広があり、その後ろにズボンが、外輪(そとわ)に足をつっぱらせてかかっている。背広には白シャツが寄り添い、赤いネクタイが輪っかにひっかけてある。グリーンのジャージの広がった足も…

代官山 晴れたら空に豆まいて 『LIVE MAGIC! 2021 Online』

「ライブ・マジック エクストラ」よりさらに5人少なく35人、なんかゲームのサバイバーみたいだけど、あたりました、今日も来た。くじ運がなくて、競争に弱く、子どものとき、棟上げ(家を建てる祝儀に、家の骨組みに大工さんが上がり、餅、小銭を撒く)で餅…

ヒューマントラストシネマ有楽町 『草の響き』

「その六月、どんなあてもなかった。」(佐藤泰志『草の響き』) 素晴らしい書き出しだ。身体の中に暗い空洞が見える。そこは塗り込められたように真っ黒で、目を開けていても閉じていても、大して違いはない。手を伸ばしても何にも触らない。その場所に佐藤…

Bunkamuraル・シネマ 『TOVE/トーベ』

「お互いに、ああしろこうしろと押し付けないで、ただ一緒にいるだけでは駄目なの?仕事だけじゃない、人生についても、そして考えることについても自由でいたい。上下関係をもたない生き方」(『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』ボエル・ヴェスティン著…

パルコ劇場 PARCO Produce 2021『ジュリアス・シーザー』

芝居の帰り、ターミナル駅始発電車の運転手は女性だ。先頭車両の正面と側方を指さし確認して、小柄でロングヘアの彼女はドアを開け運転席へ入ってゆく。思春期の少女たちの鬱、というか無気力状態を改善するためには、社会のあらゆる分野で活躍する女の人の…

代官山 晴れたら空に豆まいて 『LIVE MAGIC !2021 EXTRA』

すんごくくじ運のいい40人の人々が、次々に「晴れ豆」に入ってくる。わくわくしてる。身体が楽しそう。バラカンさんのいる上手後方から順に、席が詰まっていく。ふと上方をみると、照明を吊るすパイプがかすかに湾曲し、端でミラーボールが控えめに回って…

新橋演舞場 花柳章太郎 追悼 『十月新派特別公演』

『小梅と一重』あのー、下座の音楽が大きすぎて、小梅(河合雪之丞)が出てくるまで台詞が聞き取れない。小梅が出て来てようやく、この芝居に色彩が載る。たぶん、一重(水谷八重子)が「一中節」の師匠であることから、一中節がすごく重要なのでは。水谷の…

東京建物ブリリアホール 岩井秀人(WARE)プロデュース『いきなり本読み!in 東京建物 Brillia HALL』

戯曲を黙って一人で読む。ああ、これ、こんな話なんだな、はいはいと思う。面白いシーンに笑ったりする。つまらないシーンを残念だなと思う。光線は天から降り風はそよそよ、世はなべてこともなし。で、他人が読みあわせるのを聴く。すると、中に、圧倒的に…

シネクイント 『MINAMATAーミナマター』

「誰のための映画か」という問いと、「写真は誰のものか」という問いは、少し似てるね。 チッソ社長ノジマ(國村隼)の、「この人は(ユージン・スミス)一人で来たの」という台詞が日本語の台詞の中で一番いい。「この人」、微妙な距離と、小さな畏敬。國村…

新宿ピカデリー 『キネマの神様』

「香港映画みたいな人がいる」 「え」 レストランで振り向くとそれは沢田研二であった。えー沢田研二ー。幼稚園の時好きだったタイガースー。とその時私赤くなってたと思うけどそんなことはどうでもいい。それは12、3年前、沢田研二は恰幅のいい(ていうか太…

すみだパークシアター倉 KAKUTA第30回公演 『或る、ノライヌ』

断念の物語。と纏めるのは簡単だが、まずは題名の「ノライヌ」でひっかかってしまう。ノライヌ小学三年以来見たことないよ。ってぶつぶつ呟きながら舞台を見ると、肩寄せ合うように並ぶ5本の電信柱が、ここは重層的な空間ですよと控えめに教えてくれる。 201…

TOHOシネマズ日比谷 『マスカレード・ナイト』

「練りに練った緻密な脚本」(パンフレット)。何に向かってどう練った。推理物だから筋は練ったのかもしれん。しかし、台詞はどうよ、台詞は。新田刑事(木村拓哉)の「あなたのその眼は…」という大切な台詞、係り結びがおかしいぞ。作品以前に文法が問題、…

TOHOシネマズシャンテ 『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)』

それはコンクリートに生えたバラのようだった、と回想される。 1969年、ちょうどアポロが月に着陸した日にも開催されていた、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルは、高まる黒人の不満(リベラルな政治家や黒人解放運動の重要人物の暗殺、いつになっても…